4.図書館
訪問有り難う御座います。
「水面!!」
本棚の裏に見つけた影に声をかけるも、すぐに水面はかけだしていた。
長い髪が指の間を抜けてゆく。
「待って、水面!!」
「嫌、来ないで!」
拒絶の言葉が胸に刺さった。どれだけ自分は彼女を傷つけてしまったのだろうか。顔は見えなくとも、逃げるその背中から、水面の悲しみが痛いほど伝わってきた。
「俺、話さなきゃいけないことが――」
「聞きたくないです!!」
水面は強い拒絶の言葉を館内に響かせながら、本棚の間を縫うようにかける。しかし、当たり前に和斗の方が水面より足は速い。すぐに追いつき、その腕を掴んだ。
白く細い、折れそうな腕。びくりと体を震わしたのが、伝わってきた。
聞きたくない――それはつまり、《本嫌い》の後に続く言葉を恐れているという事で……。期待しても良いのだろうか。
逃がさないためにも思わず抱きしめたが、想像以上に柔らかい感触が腕の中にあるというのは、何とも言えない気分にさせられた。いや、そんな余裕はないのだが。
邪念を頭から振り払い、言葉を選び選び話す。
「このままでいいから、聞いて」
もしかしたら水面は――そんな思いが膨らんでゆく。
「本好き以外、全部本当です」
腕の中で身動ぎしたのが分かった。顔が赤くなったのも、耳を赤くしたのも、全部分かっていると気づいているのだろうか。それだけで、水面の気持ちを知るには十分だった。
「水面さ、俺と一度会ってたこと知ってる?」
「え?」
「やっぱ覚えてねぇか」
覚えていなくてよかったとも思ったが、少し残念な気もした。あの時があったから、今の俺がいる。
だから、小さな体を一杯にして抱きついてきたときも、教えてなんかやらないと思った。好きなら、思い出して欲しい――そんな意地悪を思ったことは、水面には内緒だ。
☆★ ★☆
入学式で何となく他のクラスの掲示を見ていると、同じ名字の奴がいた。初めは本当にそんなものだった。それからそのクラスに行ったとき、それが[あの時]の子だと知って。目で追ううちに、図書館での事件があったりなんだで、いつの間にか惹かれていた。
水面は覚えているだろうか。知っているだろうか。今も昔も、和斗が水面に救われていることに。
早く思い出せよ。
有り難う御座いました。
次話から話がようやく、進みます。