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第4話 コロニーの境界

「ええ、この人昨日買った奴隷?!」


新しく作った瘴気ライター1個と修理した2個を持ってケトラの装飾店にやってきた。


「どうだ、奇麗になっただろ」


そう言って、アベルは隣の女性を促す。

そこにはメイド服に旅装の機能を持たせたような格好のマキアが立っていた。

少し開いた胸元よりも上に奴隷の首輪が収まっている。


「アベル、それが昨日買ったっていう奴隷か?」


オーナーのケトラも店の奥からカウンターまで出向いてきた。


「ああ、いいだろ。ハウスキーパーの仕事に料理、文字の読み書きに生活補助系の魔法と護身用の攻撃魔法まで使えるぞ」


「そんな奴隷がいるわけないだろ。いても小売に出される前に富豪とかコロニーリーダーに持ってかれるわ」


「でも父ちゃん、昨日買ったの多分この人だよ。見た目全然違うけど、髪の色とか背丈とかあと普通種族だし」


「まあ、買おうと思えばアベルの資産なら買えるだろう。アレだけ稼いでいれば。しかしどれだけガラを払ったんだ?さっき言った技能が本当なら、器量と普通種ってのを考えて、民家と永住権を買い取れそうなガラ量になりそうだな」


「いや、見てたけど、水色系で透明度中のガラ一粒だったよ。近くの屋台10食分程度」


「なっ、マジかよ。いくらなんでも安すぎやしないか?昔買った牛族の男の奴隷の10分の1もしねえじゃねえか。あいつ、健康そうだから鉱山奴隷として買ったのにすぐに体やられやがって。購入代金の半分も稼がないうちに逝っちまいやがった」


「でも、今は奴隷いないけど?」

「うむ。どうも奴隷運がなくてな。細工の仕事はかなりの技術がいるし、奴隷に仕込むのは面倒だ。だから、投資用に農業奴隷、護衛用の奴隷、鉱石発掘用の奴隷を買って、それぞれの業者に貸し与えたりしたんだが、全部赤字だった。

ハウスキーパー用のも買った事あるぞ。こっちはただのワーカーと比べ物にならないくらい高価だったがな。でもあんまり知能が高くない種族で、ここにある道具をほとんど使いこなせてなかったな。容姿も兎族からかなり離れていてな。結局また売り飛ばしたよ」


「ああ、あれはひどかった。1日1個は高価な陶器を割っていたな。でも奴隷なんて実際そんなもんだぜ」


ひとしきり奴隷談義を交わしたあとにアベルは瘴気ライターを渡した。


「おお、ごくろうさま」

「そろそろ新しいアイテム作ろうと思うんだ」

「え?本当か?」

「って言っても売り物じゃないんだけどな」

「んー、すると例のオアシス計画に関係したものか?」

「うん。まだ場所も決まってないからね。そろそろ現地を見に行こうかと思って」

「ふーむ。いったいどんな道具だ。ってか現地って西の森だろ。いくら瘴気病を直せるつったってあんなところに行けば病気通り越して妖魔になるぞ?」

「そうだろうね。だから、瘴気クロークをね」

「瘴気クローク?!」

「うん。表面に瘴気だけを弾く結界を貼って、内側に瘴気ライターと同じ機構を組み込む」

「お、おい、結界を貼れるとかどこの魔術師様だよ」

「そんな大したものじゃないよ、本当に弾けるのは瘴気だけだし」

「うーむ、さすが普通種というか、するとそのクロークの素材が欲しいわけか」

「うん。メモに書いたんだけど用意できないか?」


「ああスマン、たとえアベルといえども頼みごとは聞かない」

「別種族には労働を提供しない…か」

「ああ、ガラを渡されたってこれだ無理だぞ」

「そうだった、しかし知っているけどこれってなんか理由あるのか?ライターの素材とかはちゃんと用意してくれているのに」

「ライターの素材の場合は、こちらがアベルに加工を依頼している形になるから、俺の労働力の提供にはならないんだ。ってか知らないのか?」

「え、理由って有名なのか?みんなそうだから単純にそう言うものだと思っていた」


「まぁその認識でも問題ないんだけどな。

呪いを強化するためだな。オアシスを維持する為の呪い。

オアシスと瘴気は俺達には見えないが境界があるらしい。んで、そこを支配する種族とオアシスの関連性を術で高めて、瘴気の忌避感を他の種族への忌避感と重ね合わせる。

同じ種族で固まるほど、他種族に対して排他的であるほど術は強化されて、瘴気を見えない境界の外で食い止めるようになる。こうすることで、本来ならもって精々数10年のオアシスをずっと継続させていられるんだ」


アベルはずっと瘴気の研究を続けていたのに初めて知った瘴気とコロニーの関係に感嘆してしまった。


「そんでもって、この術を使うのがコロニーリーダーってわけだ。恐らくはどの種族もコロニーリーダーはこの術が使えるはず。

命令やお願いを受け付けないっていうのは、命令やお願いをする方が主で、される方が従だろ。だから従の行動をとると術が弱くなってしまうんだよ。

んでそこで生まれた奴はそのコロニーを出てもこの関係は継続するから、生まれたコロニーが健在なら他のコロニーへ行っても従にはならないようにするみたいだな。

だから、襲撃されたりして生まれたコロニーが無くなってしまったやつとかは、主であり続ける必要はない。根なしの旅人とはそれに当たるんだが、それでも種族を超えて従にならないのは、種族のプライドみたいなものになり変わっているんだろうな」


「同じコロニーの2種類以上の種族が共存しないのはこういう理由だったのか。でもじゃあ俺みたいなのがここで定住するわけにはいかないんじゃあ?ってか、本当なら他種族と対等に付き合うのもあんまり良くない?」


「あの家はあくまで私が貸しているということになっている。お前の技術に対する対価の一部だ。それとこの術は実際がどうであるかよりも従属していない、主にいるという強い認識を持つ事が大事なんだ。だから、対等な付き合いでもそれが器の大きさという認識をもてば術がそうそう弱まることは無い。逆に種族的にそう言う認識が持てないなら、他の種族に対して友好的にならない方がいい。それがその種族の為だからな」


「なるほど、じゃあ兎族は種族的に器が大きいってことなのか?」

「年に2回瘴気の濃いやつが突破してくるからな、実際どうかわからん。それに他種族との付き合い方は、コロニーリーダーが決めている。ここまでなら良いが、これ以上はダメみたいなのだ。術を管理しているのがコロニーリーダーだから当然だな。

術の維持のためには確かに排他的な方がいいだろうが、商売や生活の為にはそうも言ってられない。種族ごとに得意な分野やコロニーごとに特産品ってのはあるからな。商売を大きくしたり生活を豊かにしたかったらやっぱり別の種族ともある程度付き合わなければならない。結界が役目を果たせる範囲でなら他種族に対する排他性を出来るだけ緩めるのが為政者のコツなんだろう。

たしかに兎族は排他性が小さいが、それも特定の種族に限っている。それに、年2回の瘴気の嵐のときにわざと集めた綻びをぶつけてそれ以外の期間の境界を強めていると聞いた事もある。瘴気の嵐が起これば結局境界をつきぬけてくるし、短期ならなんとかやり過ごす術があるからな。ここのコロニーリーダーはそのあたりうまくやっているのだろう」


アベルにとってはコロニーに関する衝撃の真実だった。

きっとこの事を知っているのはコロニーリーダーに近い人たちだけだろう。今までそう言った人に会う機会が無かったのだからそれも仕方なかった。

また、それと同時に自分の村がかなり昔から存在するのにコロニーに比べて規模が一向に大きくならなかった理由にも思い至った。村長はそんな術は使えない。何十年かしてオアシスが消えてもまた復活する。しかしその消えた期間に人口が減ってしまうというわけだ。


術は種族を超えてコロニーリーダーがみんな持っているという。しかし同じ術なら誰か1人、あるいは関連性のある集団に行きつくのではないかと思う。はるか昔の事だろうが、いったい何者であったのか。そう思いを馳せる。そして、自分の村と自分の先祖とそして自分がそれに勝るとも劣らない新たな術を完成させたことに思い至った。


そしてまたふと思った。

1つのコロニーに対して1つの種族しか支配できないのには理由があった。それならその理由が無くなったらどういうものが出来るのだろうかと。




「それじゃあ、製作した瘴気クロークの一部はこちらに納品します。それならいいでしょう?」

「瘴気ライターと同じ形式だからな、問題ない。さっそく材料を手配しよう。

見たところ小売で扱ってない材料が多いようだしな、まかせろ」


「結局父ちゃんはその瘴気クロークも売りたかっただけじゃないのか?」

ケトラの息子パリスは核心に迫った。

「で、話もどすけどアベル兄ちゃん、その奴隷の姉ちゃんの瘴気病、全部その瘴気灯で治したのか?」

「ああ、大体はな。あと内部は魔法を使って直接な。パリスの時と同じやつだ」

「あれすごいよな。兎族にも魔法使える奴はいるけど、くだらないのばっかだったからな。結構魔法をバカにしてたんだけど、アレを見てから魔法がすごいって分かったよ。魔法がバカなわけじゃなくてあいつらがバカだった」

「あいつらが誰の事かは知らないが、魔法は極めれば何でもできるらしいぞ」

「俺も魔法使えるようになる?」

「なると思うぞ。ただ種族ごとに特性があってな、全く使えないんじゃ俺が教えるよりも、まずそのあいつらとやらに教わった方がいいと思うぞ」

「じゃあ、使えなくていいです」

「そんなにか」


あいつらとやらの使う魔法というのがどんなものなのか少し興味が出たが、他種族が使う魔法をそうそう習得できないから、聞き出すほどまで関心がわかなかった。


「あそうだ、パリス。今日もまた奴隷買いに行こうと思うんだけど、一緒に見に行かないか?」

「アベル兄ちゃんこの姉ちゃんで味をしめたな、いくいく」

お願いはダメでも誘うのはOKだった。


そしてまた奴隷市場へ向かってアベルとパリスとマキアの3人は歩き始めた。


「で、姉ちゃんは昨日アベル兄ちゃんと一緒に寝たのか?」

ニンジンの揚げ菓子を並々入れた巨大な葉の入れ物から一本取り出しながら聞いた。


「マキア、自由に喋ってもいいぞ」


許可を得てマキアはやっとしゃべることができる。

同族だから奴隷でなくてもお願いはできるし、奴隷を解放してもいいと言ったのだが、マキアはそれを拒否した。それはマキアのアベルに対する敬意の表れでもあったが、実は大抵のコロニーは奴隷を解放するのを禁じている。

所有者がいる間は所有者に責任を負わせられるからである。だから奴隷の首輪を勝手に外すと罰を受ける。

ではそのコロニーの別種族の滞在者も同じではないかというと、実はそのコロニーの定住者に後見人がいないとそれとなく嫌がらせを受けたり危ない目にあったりするように仕向けられるという。それでも長居しようものなら、本当に殺されてしまうらしい。

程度はコロニーによって違うようだが、似たようなことはどこのコロニーでもやっているらしく、実際アベルは心当たりがあった。


このコロニーでの後見人はもちろん、装飾店オーナーのケトラさんだ。

そして、何気に奴隷店オーナーのゼッフェルさんも後見人になってくれたらしかった。

そして、奴隷は常に従の立場にいるから、長居できないなんてことはない。

そういう意味ではむしろ奴隷の立場の方が都合はよかった。


このことは、これから合う奴隷店オーナーのゼッフェルさんに教えてもらうことになる。


「主様はとても紳士でした」

「そう、俺は紳士でした」

「アベル兄ちゃんに言わされているんじゃないか?こんな奇麗な奴隷を手に入れといて」


「ふふ、このような美しい女性に対して無抵抗を良い事に好き勝手するというのは俺の良心が許さないんだ」

「主様…」

「アベル兄ちゃん…かっけえ!」


「まぁそれもあるんだけど、実は童貞や処女を失うとすでに覚えた魔法はともかくこれから新しく魔法を覚えようとすると極端に習得率が下がるんだ」

「…え?!そうだったのですか主様?」

「マ、マジか兄ちゃん」


「うむ。自分で言うのもなんだけど結構魔法のセンスがあると自負しているんだ。なのに、使える魔法は瘴気に関するものばかりで、攻撃魔法みたいなカッコイイのはおろか、生活を豊かにするような便利なやつとかそういうのを一切習得していないんだ。まぁ、もといた村で使われるのも研究に必要な魔法がほとんどだったからな。そうでないのは誰も知らないから教われなかった。だから、もうちょっと覚えてからにしようと思うんだ。童貞を失うのは」

「そ、そんな理由だったのですか?で、でしたら私の知っている魔法をお教えいたします。主様ならきっとすぐに習得なさいます」


「ね、姉ちゃん、なんでそんなに必死に…。

で姉ちゃんはどうなの?」

「処女だって」

「あ、主様…」




「でもなんで、童貞だと魔法の習得率が上がるんだ?」

「よくわからんけど、魔法のメカニズムに関係しているんだと思う。

魔法は、自分の体に貯まっている魔力を精神の力で掬いだす。この一度に掬いだせる量が使える魔法の力の上限になるわけだな。そしてこの掬いだしたものを頭んなかで、形だったり色だったり意味だったりイメージとかに加工するんだ。掬いだしたものが墨のようなものだと考えるといい。墨が多ければいろんな文字を書くことができる。

そういうのイデアって呼ばれているな。で、それを法則によって組み合わせると魔法が出来上がる。すごい魔法は大体組み合わせる数が多い。

で、このイデアの内のイメージって部分だけど、よく知られている魔法は組み合わせるのに必要なイメージの部分で性的なのがかなり多い。でもこれが性交を知った後だと浮かべる必要のあるイメージと少しずれてしまうらしい。だから、以後に習得しようとしてもなかなかうまくいかなくなる。本番じゃなければ別に問題ないらしいけどな。俺はそういう経験がないから分からん」

「最初に魔法を作ったやつが童貞だったからか?」

「そうやって、大昔の偉大な魔法使いたちをバカにするのは許されざるよ。

あと、これは俺の村で聞いたことだから実際違うかも知れないし、今の説明も後半は俺の勝手な解釈だからな。べつに真に受けなくてもいい」


「主様…本番じゃなければいいのですか?」

「ね、姉ちゃん。アベル兄ちゃん、俺に兎族の少女の奴隷買ってくれない?」

「パリス…お前。買うよりも普通に恋人とか作れよ」


「俺多分、大魔法使いになる素質ある気がするんだ」

「そうか、まぁ親父さんの手伝いしてお小遣いでも貯めておけ」

「一人前になるまで、どれだけ手伝ってもほとんどガラくれないんだよ。兄ちゃんの仕事手伝うからガラくれよ!!」

「おいおい、俺達同じ種族じゃないだろ。親父さんがだめなら他の兎族のところに仕事しに行けよ」

「だってアベル兄ちゃんほど払いの良さそうなやつって多分いないから。ガラの価値全然分かってないし」

「ぐぬぬ」


「そういや、パリスから仕事を求めてきて俺が仕事を言い渡した場合どっちが主でどっちが従なんだ?」

「お?俺に任せてもいい仕事なんかあるのか?

まぁ、その人の解釈によると思うよ。ちなみに今回の場合俺が主だと思うことにする」

「いいのかよそれで」

「いいんだ。で、何だ?」


「ああ実はな、昨日自分の資産がどれぐらいになるのか検討してたんだけど、俺も、マキアもガラの価値が分からなくてさ。で、俺とこいつにガラの鑑定眼を授けてやって欲しいんだ」

「なるほど、お安い御用だぜ!その姉ちゃんにガラの細工屋の倅として、一般よりもシビアな鑑定眼を授けよう!」

「ん?俺は?」

「いや、だってそんな態度で教わられたらなんかこっちが教えさせられているいう感じになりそうだからさ、でも奴隷の姉ちゃんならこっちが主って感じになるし」

「ほほう、で本当のところは?」

「アベル兄ちゃんに教えるの面倒くさそうだけど、この姉ちゃんは美人だからいい」

「…」

「っていうか、アベル兄ちゃんにはちょくちょく教えているのに全然上達しないじゃん。先に美人さんに教えるから、そのあとで美人さんに教えてもらってくれ」

「まあ、それでいいか。

んじゃ、帰った後に講義してやってくれ。マキアもそのつもりでな」

「はい、主様。よろしくお願いしますパリス様」

「ん~、いいね!昔家にいた奴隷とは大違いだね」


そう言うとパリスは手を出した。


「なんだその手は」

「先払いで。説明するのにガラが必要だし」

「お前も少しは持ってるだろ。まぁじゃあこれで」


ポケットから一つかみ取り出し、パリスの掌に置いた。


「うひょーーー!だから、アベル兄ちゃんはガラの価値が分かってないっていうんだ!」

「お前の親父さんにお前を甘やかさないように言われているんだ、そのいくつかは講義に使う用だからな、講義が終わったらお前の取り分除いてちゃんと返せ」

「分かっているよ。誠実がモットーの兎族を信頼してくれって」




そんな魔法談義をしながらいつの間にか奴隷市場にたどりついていた。


「そういえば、今度はどんな奴隷を買うだっけ?」

「うむ、瘴気クロークの目処がついたから、一度コロニーの西を探索してみたいと思っているんだ。でも俺とマキアだけじゃあ妖魔に殺されてしまうからな。戦奴隷っていうの?護衛用に何人か欲しいと思ってな」

「へぇ!じゃあ次は屈強な男の奴隷になるのか。鰐族とか豚族とかが向いてるって」

「豚族はちょっとなぁ。まぁ、とりあえずゼッフェルさんところに行ってみるか」


「いらっしゃい!おお、アベルさんじゃないか、はやくも買いに来てくれたんだな!

って、そっちの奴隷マキアか?!」

「ああ、そうだよ。奇麗になっただろ」

「おいおい嘘だろ、こいつこんな上玉だったのか。っていうか、治療したのか?」

「ふふん」

「ああそうか、瘴気ライター売ってるケトラさんとこの関係者だもんな。

つってもいったいどれぐらい瘴気ライター使ったんだ?あれ目茶苦茶高いだろ。いくら瘴気ライターがずば抜けた効力あるからって、あそこまで浸食した瘴気病をここまで奇麗にしようと思ったら、まっさらな繭族1人犠牲にするレベルだぞ」

「まぁ、そこらへん企業秘密だ。だけどゼッフェルさんがアレぐらいになって俺のところに訪ねてきたら直してあげてもいいよ」

「おいおい、なんだそれ。そんなこと言われたら値引きせざるを得ないな」


ハハハ、と和やかな雰囲気が包んだ。


「で、今日はどういうのが欲しいんだ?」

「ああ、強そうなのが欲しい。ちょっとコロニーの外に調査しに行くんだけどさ、妖魔怖いから護衛を頼めそうなのを買おうと」

「んん、なるほど。兎族ならコロニーの傭兵とかに頼めるけど、あんた普通族だからな。

ふむ、じゃあこいつはどうだ?昨日もいたけど、鼠属の男だ。ナイフの扱いに長けているぞ」

「うーむ、なんか弱そうじゃないか?」

眼光は鋭いが、体つきは非常にひょろかった。ナイフの扱いに長けているというよりは、ナイフしか扱えないといった感じだ。

「ちゃんと飯食わせているのか?」

「おいおい、奴隷商人は奴隷の管理のプロフェッショナルだよ?健康管理にはちゃんと気を使ってるって」

「他は?」

「じゃあこの犬族はどうだ?こいつは鉱山で働いていたやつで戦闘訓練とかは積んでないが腕っぷしはかなり強い。なかなかいい戦力になるだろう。膂力もあるから荷物もたくさんもってくれるぞ」


「おー、確かに良さそうだけど。あ、そうだ、投資目的で買うっていうのありますよね?」

「ああ、あるな。たとえばそいつを買った場合、近くの坑道に1日いくらで貸し出すみたいなこともできるし、歩合で鉱山所有者と折半ってのもできる」


「ゼッフェルさんとか他の奴隷商人の人とかはそういう使い方しないんですか?」

「ははは、外に出したら見に来た人に見せれないじゃねーか。俺はあくまで奴隷商人だからな、そういう使い方をするのはお客さんだけだ」

「まぁ、そりゃそうか。とりあえずこの犬族は保留しとく」

「こいつは結構良いぞ、すぐに売れちまうと思うから買うなら早めにな!」


「お、そういえば店の奴隷の数は昨日と一緒だな」

「ああ、アレからすぐに新しいのを1人入荷した」

「へえ、どいつ?」

「こいつだ」


年老いて弱った、虎族の男だった。両腕に瘴気病を患っている。


「こういう奴隷はどういう目的で買われるの?」

「歳とってたらそれなりの技能を身につけているもんだ。使えることもたまにはある。ただぶちまけるとこいつの場合は、他の奴隷を引き立たせる為に置いているんだがな」

「ぶちまけすぎだろ」

「ははは、ってか、昨日アベルさんが買って行ったその子もそういうつもりで買ったんだけどな。何処にも瘴気病がない奇麗な奴隷ですってな感じで」


「なるほど。で、この虎族は何ができるの?」

「何か気になったのか?まぁそうだな昨日買ったばっかりだから、あんまり話はしていないんだが、結構悪い方の冒険者だったらしい。んで、どっかのコロニーで悪さして捕まって奴隷になったとか聞いたな。まぁ、冒険者としての知識はひょっとしたら使えるかもしれないが、悪さする方じゃあんまり使えないだろうな。同じようなことをするならともかく。瘴気病もそうだけど結構歳食ってるし、戦力としては期待できないぞ」

「ふーむ」

アベルはその風貌を見ながら少し考えた。

「ゼッフェルさん。この虎族買うよ」

「おい、マジか。アベルさんのお眼鏡にかなったのかよ。まぁ昨日買ったばっかりだから、維持費全然かかってないし、十分儲けがでるからいいんだけどな」


そう言って、アベルはガラの山をだして、ゼッフェルさんにその価値に釣り合う分だけ受け取ってもらった。


「しかし、対価のガラをこっちに選ばせるなんてちょっと信用しすぎじゃないか?俺がいうのもあれだけど」

「兎族は信用できますから」

「そう言ってもらうと、あんまりとり過ぎれねぇ!あんた策士だな!!」


奴隷の首輪の名前をアベルに書き換え、雑談した後に、新しい奴隷を伴って店からでた。




「そういや名前聞いてなかったな。お前、お前の名前を教えてくれ」

「おう、俺ぁゲルゼってもんだ。よろしくな、若いの」


「奴隷のくせに主様に向かって若いのなんて…言葉使いを改めなさい!」

「お、おい、お前だって奴隷じゃねーか。それに勝手にしゃべって良いのかよ」

「私は主様から自由に会話する権限を頂いています!あなたこそ主様への敬意を言葉に込めなさい」

「奴隷が奴隷に奇麗な言葉遣いを求めるなんて初めて見たぜ。俺は奴隷になる前は奴隷商人をやっていたんだ」


「悪い冒険者じゃないのか?」

「悪いって…虎族の男はみんな狩人なんだよ、獲物はいろいろだが、俺は人間だったってだけさ。まぁ、冒険者と言えなくもないな。コロニーはあったがみんな何年も帰ってこないし」


「ってことは、いろんなところを回っていた?」

「おう、この辺りは奴隷になってからだけど、ここからずっと北の方じゃ結構彼方此方回ったな」

「じゃあ、普通種族のコロニーってあったか?」

「ほう、そういえば若いの、普通種族だな。奴隷にしたら高く売れたなあ」


「主人が普通種族なのによくそんなこと言えるな。アベル兄ちゃん舐められてるよ!」


「ああ、すまねぇ。つっても虎種族ってのは大体みんなこんな感じなんだ、悪気があるわけじゃないから許してくれ」

「別にいい。それより、どうなんだ?」

「ああ、普通種族のコロニーか。って言うか、基本的に普通種族のコロニーって無いぞ」

「えっ?」

「大体どこも村とか集落の規模だしな。ひょっとしたらコロニーって呼べる規模もどっかにあるのかもしれないが、そもそもコロニーってコロニーマスターが治めているところだろ?普通種族はコロニーマスターになれねぇぞ」

「え?なぜ?」


「コロニーマスターってオアシスが消えない術みたいなの使えるだろ、あれって自分の種族と他の種族を分ける概念みたいなのが必要なんだけど、普通種族って他の種族の元になった種族らしいから、そういうのが成立しないって聞いたな」

「な、そうだったのか、通りで普通種族のコロニーが見つからないわけだ」

「ははは、若いのあんま物を知らなそうだな。そういうのでよかったらいくらでも聞いてくれ」


「そういえば、アベル兄ちゃん、護衛用の奴隷を買いに来たんじゃなかったっけ?こんなの買ってどうするつもりなの?」


「む、確かに両腕とも瘴気病にやられてっから、飯食うのすらほとんどできないありさまだけどよ…体自体は全然衰えていないんだぜ、虎種族だしな。荷物持ちとかならいくらでももってやらあな」


「ただの荷物持ちなら、さっきの犬種族のがいいんじゃないか?」


「う、うるせーよ。もし瘴気にやられて無かったら、1人でも中型の妖魔狩ってやれるぜ」

「嘘付けよ、中型の妖魔って一番弱いやつでもそこそこの冒険者4人分の強さって聞いたぞ」

「その4人の冒険者が弱いんだよ。俺に比べてな。まぁ、言っても仕方ないけどよ…」


そう言ってゲルゼは肘から手首までを眺めた。左右とも同じように病魔が蝕み手を握ることすらできない状態になっていた。


「まぁ、それは帰って治療するとして、さっきも言ったように護衛の奴隷を探しているんだ。そのあともいろんなタイプの奴隷を買って行くつもりだから奴隷商人としていろいろアドバイスしてくれ」

「お、おう。いまなんかさらっとすごい事言った気がしたけど、まぁいいか。俺はさっきの店みたいな小売じゃなくて、卸の方だからな。少なくともそこのゼッフェルってやつよりは詳しいぜ」


「よろしく頼む。じゃあさっそく一つ聞いておきたいんだけど。投資用に奴隷を買うのって儲かるのか?」

「投資用っつうと、買ってそのまま誰かに貸し与えてそっから儲けを得るってやり方か」

「そう」

「やめとけ、他人の奴隷なんてめちゃくちゃな使い方するぞ。大抵は。だから、すぐにがたがたになって寿命を縮めちまう。奴隷は自分で使うように買うべきだな。実際、鉱山主も自分で買った奴隷はそこそこちゃんとした扱いしてるけど、借りてる奴隷は本当に適当だったからな。仕事を提供する側から奴隷を借りに来た場合はちゃんと扱っていると思うけどな」


「でも、投資用に奴隷を買うのってよく聞くけどなあ。儲かるって話だし」


パリスは父が昔よく言っていたことを思い出した。


「あれは、奴隷の小売が流したデマみたいなもんだな。そうやって買ってってくれれば儲かるからな。まぁ、奴隷を見る目があればそう言うことしてもちゃんと儲けが出るかもしれないがな、そこの若いののように」


それを聞いてパリスは納得言ったらしかった。


「で、護衛に向く奴隷ってどういうのだ?」

「そうだな、拠点の近くを護衛するタイプ、つまりコロニーの中とかその近辺ってなら、単純に戦闘力の高いやつがいいだろうな。

でも、遠方に行ったり旅の護衛になると、単純に強いってだけよりもさっき言ったみたいに荷物がたくさん運べるとか、料理や野営のスキルがあったりとか、鼻や目が聞く奴の方がいいだろう」


「ふむふむ」


「それだと、拠点タイプになるんじゃないか?アベル兄ちゃんの場合」


「調査の護衛だ。場所は、このコロニーから多分2リーグぐらい離れた場所になるかな。盗賊の心配はまずないけど妖魔に襲われる可能性はかなり高い」


「妖魔に襲われやすい場所か。それって瘴気の濃い場所になるんじゃないか?」


「瘴気は考慮しないでいい」


「妖魔相手なら、普通は遠くから攻撃した方がいい。強さはピンキリだがな、先手を打てればかなり強いやつも何とかなる。なぜなら遠距離攻撃してくる妖魔ってのはいないからだ。遠距離っつったら、魔法か弓みたいな道具を使うだろ。妖魔は賢い奴もいるみたいだが、みんな素手で攻撃するからな。魔法を使う妖魔なんて聞いた事ねえし。

だから感覚の鋭い奴が1人は欲しいな。妖魔から攻撃を食らうよりも先にこちらが攻撃するのが重要だ。目が良い奴、感がいいやつ、斥候に向いてる奴とかな。斥候の場合、見つかるのは斥候やってる奴だからうまく引きつけさせて余裕をもって攻撃できるな。

それと弓の得意なやつだな。あと、近接戦闘要員も最低1人は欲しいところだけど、最初から近接戦闘で戦おうとは思わない方がいい」


「すると、最低でも、索敵、弓、近接の3人は必要ってことか?」


「斥候じゃなければ索敵と弓は兼任できる場合があるな。近接は弱らせた妖魔の止めってところだ。ってまぁ相手が妖魔限定だからこう言ったけど、普通妖魔だけを敵に設定することはまずないからな。護衛が想定する敵は、他種族の人狩りとか強盗、つまり集団の人間だな。こっちはなんでもありだからな」


「さすが元人狩りが言うと説得力がある」


「まぁな」


「俺なら索敵の役目は十分果たせるぜ。ただ、この手じゃ戦闘は全くできねぇから、少なくとも遠距離攻撃と近距離攻撃用のあと2人の戦力が必要になるけどな」


「斥候は確かに必要だな。調査するのが目的だし、敵を発見するだけじゃなく、どっちにしても斥候タイプが欲しい」


「調査ねぇ、まぁ俺に任せろ。いい奴隷を見つけてやるよ」


そうして5人は奴隷市場を見て回った。


「いやあ、いい買い物したな」


そこには3匹の猫族の奴隷がいた。








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