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第3話 計画

「おいしい。お茶を淹れるの上手いね、マキアは」

「ありがとうございます。主様」


「前の主の家で身に付けた?」

「いえ、奴隷業者以外に買われたのは、主様が初めてです。

「え?そうなの?でも、君みたいに奇麗な子じゃ欲しがる人多そうだけど」


マキアは僅かに俯いた。どうやらはずかしかったらしい。


「村を濃い瘴気が襲ったときにほとんど全身が瘴気病に侵されてしまいました。最初に人狩りにつかまって奴隷商人に売られた時も恐らく大して値がつかなかったと思います。一緒につかまった仲間と比べて10分の1にもなりませんでしたから」


「その仲間は?」

「すぐに個人の買い手がついて売られて行きました。

私だけ買い手がつかずに奴隷商人同士の売買でこちらまで流れてきたのです」

「なるほどねぇ」


まだ熱々のお茶をすすった。


「ところでこれひょっとして魔法を使って淹れたの?」

「はい、主様」


「へえ、さすが普通種!うちの村じゃ研究に関係ある魔法はたくさん開発されたけど、生活に必要そうな魔法とか全然ダメだったな。だれも興味持たないというか」

「そうなのでございますか?」


褒められたマキアは嬉しそうにほほ笑んだ。


「ああそうなんだよ。マキアは他にもいろいろ出来そうだな。他にも何ができるのか教えてほしい」


そうして聞いたり見せてもらったりして分かったことは、ハウスキーパーとしてのほとんどすべての技能とそれを補助するいくつかの魔法、算数や文字の読み書き、さらに護身用のレベルではあるが、攻撃魔法も習得していた。

病気に侵されてからは魔法が一切使えなくなっていたらしかったが、さっきお茶を淹れたときにまた使えるようになっていたとのことだった。


「もし君をまたどこかに売るなら、普通の奴隷10人分ぐらいの価値で売れそうだね」


アベルはもちろん冗談で言ったのだが、それを聞いたマキアは涙を浮かべた瞳をこちらに向けた。


「主様に仕えさせてくだざい。うう」

「はは。例えだよ。売るわけないじゃないか。君みたいな優秀な子を。それにある程度働いてくれたら、奴隷の身分を解放してあげるよ?もう魔法も使えるし、1人でも生活できるんじゃないかな?」


そう言うと今度こそ涙を流して訴えた。


「一生、主様に仕えさせてください。お願いします。うぅ」

「ええ?奴隷って実はまだよくわかっていないんだけど、普通解放されたいものじゃないの?」


「うう。もぢろんそうですが、私は心から主様を尊敬お慕い申し上げています。ですから、解放するなんて仰らずに主様のお傍に置いてください」

「まぁ、君がいいならもちろん構わないよ」

「ありがとうございます!!」


「ところでハウスキーパーの技能も持ってるけどこれは村にいたときにそう言うことしていたの?」

「ええ、私の家は代々族長に仕えていまして、私もその為の技能は一通り身につけさせられました。それで2年ほどは族長の家で働いておりました」

「なるほど」


「ですから、一応攻撃魔法が使えはしますが、冒険者をやるより、その他の仕事をするよりも誰かに仕えるのが一番自然なのです。それが主様のようなお方にお仕えできるならこれ以上の仕事はございません」

「なんかくすぐったいな。算数が出来るのもやりくりとか任されていたから?」

「ええ、村で交換していた物の相場は全て把握していました。といってもそんないろんな種類があるわけじゃないですけど」


「ここじゃガラって呼ばれている鉱石がメインで取引されているけど、正直相場がよくわからないんだよ。ある程度貯まったら奴隷をそろえて計画を実行しようと思っているんだけど、今一つ自分の資産が分かっていないんだ。マキアも管理の手伝いをしてほしい」

「はい、お任せください!と言いたいところなのですが、申し訳ありません。私もガラの価値がよくわかりません…」


「まぁここの住人以外はほとんど分からないみたいだから仕方ないけどね。とりあえず、今ある分を出してみるよ」


そう言って、また別の部屋へ行き、しばらくして20cm四方でそれよりは少し浅い程度の箱に満タンに入ったガラの小山を持ってきた。ガラはいろんな種類の鉱石の総称で、箱の中はきらきら輝いていた。


「主様。ガラの正確な価値は分かりませんが、これが相当な資産であることは分かります」


あと何回驚かせるんだろうと思いながら少し呆れた調子でマキアは言った。


「うん。まぁ結構な量だとは思うけど」

「恐らくこれだけの量を一度に使うことはこの規模の町では出来ないと思います。ですから、もう徐々に実行に移されても問題ないのではないでしょうか?」


差し出がましいとは思いつつも、マキアは進言した。


「そうだな、もうしばらくのんびり瘴気ライターを製作するだけの簡単なお仕事を続けたかったけど、マキアも買った事だし、少し進めていくか」


「もう計画はおありなのですか?」

「細かいところは決まってないけどね。方針はずっと前から出来ている。一度脳内を整理するのも兼ねて、マキアにも言っておこうか。きっといろいろ手伝って貰うだろうから、先にある程度知っておいてくれた方が、マキアも動きやすだろうし」


アベルは一息ついた。


「とりあえず大まかな方針を言うよ。

ここから西の瘴気の濃いところに大きな浄化装置を作ろうと思う。

この家と同じぐらいの規模の建物になる予定だ。それで大体半径100mの範囲はこの町と同じレベルの瘴気濃度まで下げられる。


だけどそれだけじゃ、オアシスとはいえなし、人が生活しそれを維持できるほどの大きさじゃない。そこで、4隅に瘴気だけを遮断する結界をはる為の建物を立てる。こちらは、もう少し大きな建物になると思う。


結界さえ張ってしまえば、内側はずっと浄化され続けるから、そのうちこのコロニーよりも瘴気濃度が低くなると思う」


茶をまた一口すすって続けた。


「で、そうすると結界のすぐそばの瘴気濃度は跳ね上がってしまう可能性がある。その場所を含む広範囲で見てもともとあった瘴気の絶対量に戻ろうとするからだ。

だから、意図的に瘴気の濃い場所作って瘴気の分布に起こる歪みを正す必要がある。そこでオアシスから離した場所に、瘴気を貯め込む施設を作る。これはひょっとしたら必要無いかもしれないが、念のためだ。


まぁ、つまり、一つのオアシスを作るにあたって、浄化装置用の建物に結界用の建物4つ、それと瘴気を貯め込む施設の計6つが必要になるわけだ。


結界用の4つの建物はそれぞれ海面からの高さをそろえなければならない箇所がある。だから出来ればあまり高低差の無い土地を選びたい」


マキアは感心しつつも真剣に聞いていた。理解不能な点もあったがとりあえず記憶にとどめて飲み込むことにした。


「で、土地を選定するための人員、妖魔の跋扈する地だからそれを守護する兵力、さらに浄化前の濃い瘴気の中でも活動できるような特別な装備がまず必要かな。

もちろん装備のあてはある、まだ作っていないけど。


でそれが終わったら、石材の確保、木材は現地で調達。そして、それを運んだり建設するための人員。食糧を定期的に運ぶ馬車とそれの護衛、その為の道の舗装。

新しいコロニーだけで回るようになるには結構時間かかるだろうから、それまではどうしてもこのコロニーから補給しないといけないからね。まぁ、必要無くなったとしても、交易は有用だろうから結局道路を整備するのは不可欠になると思う。


実行に移してから1年で現地でほとんどの食糧や最低限必要な日用品とかを調達できるレベルにしたいね。あまり長期化すれば、どれだけ資産があってもあっという間に消えてしまうだろうから、出来るだけ早く自給自足出来なければならない」


「壮大な計画ですね。これに携われるなんて、なんだか夢のように思えます」


アベルは少し照れた。


「とは言っても街づくりに関しては全くの素人なんだ。だから漠然とこの程度の事しか考えてない。しかし、どうしても普通種主導で作りたいんだ」


マキアはそれに同意した。まったくの一から普通種による普通種の為のコロニーを作ろうとしているのだ。

コロニーに定住することすらそれが叶わない人にとっては大きな夢なのに、定住するためのコロニーを作ろうというのは途方もない事である。


「別に亜人種を排除するつもりはない。あくまでコロニーマスターを人間種に据えたいってだけ。そうじゃないと村のみんなやご先祖様に申し訳が立たないからね。これは悲願だから」


そういって話を一端区切ると、適当な雑談を小一時間ほど交わした。


話が一区切りついたところで、工房として使っている作業部屋へ向かう。

いくつか納品された材料を細かく分けて、それぞれに術をかけていく。そうして出来たものを一つに組み立てる。

つくりは割としっかりしているのだが、一部術が消えやすくなっている。しかし、これはわざとそうしていた。

そうすることで、この技術の生み出す利益部分を握り続ける事ができるからだ。

それが可能な理由は、この術はアベル以外には使える者がいないからだ。

それを分解し研究しようにも、長年にわたって研究された知識無しには理論すら理解できないような代物なのだ。

その知識の幾らかはノートにまとめてあるが、それを見たところで知識の土台となるものがなければ同じ事。かつての村の住人ならばこのノートがあれば同じものを作れるかもしれないが彼らははるかに遠い地にいる為、今アベルが死ねばそのままロストテクノロジーと化す。


そんなわけで一つ完成した後に、2個壊れて使えなくなったライターの修理に取り掛かった。といっても、恐らく予定通りに魔術の消えた箇所をちょちょいとかけ直すだけだが。

使えなくなったライターは売値の半分の価値のガラで買い戻すようにしていた。ただし、分解されたり余計に壊れたりしている場合は、交換に使うガラの価値も下げる。

使えなくなってただ捨てるより、下取りで得たガラと持ちガラで新たに瘴気ライターを買った方が非常にお得という訳である。又そのまま瘴気病が治ってしばらく必要が無いなら、後生大事に持っているよりもガラに変える方がいいわけで、このサイクルが出来上がれば材料費や一から組み立てる労力を節約できる為にアベルとしてもありがたいというわけだ。


そんなわけでちょちょいと術をかけ直して2つの瘴気ライターの修理は、僅か5分で終わった。


瘴気ライターも作ろうと思えばもっと作れるのだが、あまり技術を安売りしたくなかった。それこそここにたどり着くまで、何代にもわたって村人すべての努力があればこそなのだ。

あと、術で使う魔力も無尽蔵ではないから、結局たくさん作れないのだが。


作業を終えて、リビングにくつろぎに戻ると、見違えるほど奇麗になっていた。


「これマキアがやってくれたのかい?」

「ええ、そうです主様。余計でしたでしょうか?」

「いや、そういえば君の仕事を決めていなかったね。しかし、ここまでしっかり掃除できるならとりあえず掃除は任そうと思うよ」


マキアはそれを聞くと心底うれしそうにほほ笑んだ。


「台所も拝見させていただきましたが、あまり食材がありませんね」

「ああ、俺いつも近くの屋台で飯食ってるから」


「よろしければ、私に作らせていただけませんでしょうか?」

「おお、本当に?そういえば料理もできるって言ってたね。じゃあ任せようか、っとまず食材買いに行かないとダメなのか。

うーん、一緒に行きたいところだけど、さっき魔術使ってちょっと精神を休めたいから、マキアが買ってきてくれないか?」


そういってアベルはソファーから腰を上げて寝室に向かい、また戻ってきた。


「とりあえずこれだけ渡しておくよ」


そう言うと、ガラを一つかみマキアに手渡した。


「食材はそっから買ってきてくれ、君の服もついでに。俺の奴隷なんだから、恥ずかしくないように着飾ってくれよ」


半ば茶化すように言う。


「あと何がいるのか分からないから、必要な物や欲しいものも遠慮せずに買ってくれていい。一応何を買ったかだけ後で教えてくれ。交換の相場は分からないと思うけど、マキアならうまくやれるんじゃないかと思う。ここの連中はかなり親切だし、正直なやつが多いからな。もしガラの鑑定眼が身に着いたら俺にも教えてくれ」


そう言うと、また元のソファーに寝っ転がり、背中を外に向けた。


「ありがとうございます主様」


手渡された物は、今日自分についた価値の何十倍もありそうなガラの塊だった。それをマキアの裁量に全てゆだねてしまう主の信頼を感じてほんの少しも無駄にできないとマキアは、決意した。


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