表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

勇者の襷

作者: 石井春介

勇者が死んだ。

まだ若い勇者だった。


「魔王め、よくもこんなひどいことを」

人形のような勇者の寝顔を見ながら、彼の伯父が呟いた。

その小さな言葉に憎しみが十分こもっていたことは、幼い少年にもわかった。


「お父さん」

少年が、勇者の伯父の裾を引っ張った。

「お兄ちゃんは殺されちゃったの?」

「そうだよ。お前の従兄弟は、邪悪な魔王に殺されちまったんだ」


ハンカチで悲しみの涙を流していた人たちが、一斉に顔を上げた。まだ10にもならない無垢な少年に、魔王という残酷な存在を教えるのはいささか良くない。


「魔王は悪い人なんだ」

少年は従兄弟の顔を見つめながらぽつりと呟いた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「やっぱりお前にはまだ早かったな」

「そんなことないよ」


もう陽が沈む。少年は父親の手を握って、石ころを蹴った。

「僕勇者になりたい」

「勇者に?」

父は夕日を眺めながら小さく笑った。

「まだ無理だよ」

「大きくなったらだよ」

「そうか」


父は目を細めて小さく言った。夕日はもう見えなくなっている。

「お前はお兄ちゃんにそっくりだな。あいつも、小さい頃から勇者になりたがっていた」

「本当に?」

「ああ」

「じゃあ僕、勇者になれる?」

少年が石ころを蹴った。石ころは地面を這い、静かに歩みを止めた。


「きっとな」

父は少年の手をやんわりと握り返す。


白くて丸い月が、地面近くで小さく輝くのを瞳に映しながら、少年は父に寄り添った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ