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桜の木

近所には、酒蔵があった。小さいけれど、それなりの歴史があり、地酒が有名だったらしい。私が子供の頃には、既に酒蔵は辞めていたけれど、酒屋は営業していた。町内のオジサン達が店に集まり、ワンカップを片手に世間話をしていたのを、覚えている。駄菓子なども売っていて、友達と買いに行ったりしていた。

 酒屋と呼んでいて、広い敷地は、子供達の遊び場にもなっていて、時々、はしゃぎ過ぎて、叱られた。その酒屋の庭には、桜の古い桜の樹があり、春になれば、見事な枝ぶりに花を咲かせていた。酒屋の主は、老齢で庭の手入れも殆どしない。だけど、庭は綺麗だと評判だった。四季折々の花が咲く、そんな庭。

だけど、跡取りが無く、酒屋は廃業し無人となり、やがて廃屋となった。

 立派だった家屋は、老朽化が進み崩れかかっている場所もあった。

白壁の塀も、ヒビだらけでいつ崩れるか、皆、心配していた。


 それから数年、町内の人が減って、酒屋は家屋の崩壊が進み、廃屋状態に。

酒屋の近所にも、誰も住まない空き家も増えていた。

人がいなくなっても、季節は巡るモノで、桜は毎年、花を咲かせる。

夜になれば、夜闇に浮かぶ薄紅と廃屋の情景が、なんともいえないモノを感じさせた。

なにか、出ても不思議ではない。そのような感じがした。

桜は、色々な物語に登場し、その意味も万別。

美しく儚い。美しいが恐ろしい。

その様なイメージがある。

酒屋の桜は、後者だ。何故だかは、解らいけど。

夜闇に浮かぶ花と、崩れてしまいそうな廃屋が、そうさせているのだろうか?

それとも、庭の片隅にある、祀り忘れられた社の影響なのか。

怖くて綺麗な、酒屋の桜。


 ある夏の日、廃屋と化した酒屋は取り壊されて、アスファルトに覆われて、太陽光発電のパネルが設置された。


 あの桜も、庭も、面影はない。

無粋で、虚構な物体で埋め尽くされてしまった。


 春になると、思い出す。あの桜の古木を。

美しくて恐ろしい、闇夜に浮かぶ花を。


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