99 変わらないもの
カフェの照明が、少しだけ落ち着いた色に変わる。
外は完全に夜で、ガラスには店内の光が映っている。
テーブルの上。
空になりかけたカップが二つ。
「変わらないね」
凛が、ふと口にする。
視線は、カップの縁をなぞる指先に落ちている。
「なにが」
顔を上げる。
少しだけ首を傾ける。
「そういうとこ」
小さく笑う。
その笑い方は、あの頃と同じで、
何を指してるのか、
説明されなくても分かる気がする。
「凛もな」
自然に返す。
少しだけ間を置いてから。
凛が、少し驚いたように目を上げる。
それから、
ふっと、柔らかく笑う。
沈黙。
言葉が途切れる。
でも――
さっきまでとは違う。
無理に何かを探さなくてもいい沈黙。
埋めなくていい空白。
ただ、そこにある時間。
カップの底に残ったコーヒーが、
静かに揺れる。
店内のざわめきが遠くにあって、
二人の間だけ、少しだけ静かになる。
(……)
目が合う。
逸らさない。
そのまま、少しだけ続く。
昔みたいに、
言葉がなくても成立する距離。
なくしたと思っていた感覚が、
ゆっくりと戻ってくる。
変わったものもある。
時間も、関係も、形も。
でも――
全部が変わったわけじゃない。
ちゃんと残っているものもある。
それを、今になってやっと、
確かめるみたいに。
沈黙が続く。
でも今度は――
昔みたいに、
心地よかった。




