97 ぎこちない距離
カフェ。
ガラス越しに、夕方の光が柔らかく差し込んでいる。
コーヒーの香りと、小さな会話のざわめき。
向かい合って座る。
テーブルを挟んで、ちょうどいい距離。
でも――
少しだけ遠い。
カップに手を添える。
湯気が、ゆっくり上に消えていく。
「元気だった?」
先に口を開いたのは、凛。
声は変わっていない。
少しだけ落ち着いただけで、
ちゃんとあの頃のまま。
「まあ」
短く返す。
言葉はそれだけ。
それ以上、うまく続かない。
「そっか」
凛が、小さく頷く。
視線が、一瞬だけカップに落ちる。
沈黙。
店内の音が、少しだけ大きく聞こえる。
スプーンの触れる音。
隣の席の笑い声。
二人の間には、言葉がない。
でも――
嫌じゃない。
気まずさはあるのに、
居心地が悪いわけじゃない。
むしろ、
このぎこちなさすら、
どこか懐かしい。
昔も、
最初はこんな感じだった気がする。
距離を測るみたいに、
少しずつ言葉を選んで。
少しずつ近づいていった。
(……)
ふと、凛を見る。
同じタイミングで、目が合う。
すぐに逸らす。
少しだけ、笑う。
言葉にはならない何かが、
確かにそこにある。
時間は流れたはずなのに、
全部が消えたわけじゃない。
ただ、形が変わっただけ。
カップの中のコーヒーが、
ゆっくりと冷めていく。
二人の距離も、
まだそのまま。
ぎこちないまま、
でも確かに、
同じ場所に座っていた。




