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95 空白
夜。
部屋の明かりを落とす。
窓の外から、遠くの車の音だけがかすかに届く。
ベッドに横になる。
マットレスが少し沈んで、
体がゆっくりと重さを預けていく。
天井を見る。
何もない白い面。
昼よりも少しだけ暗くて、
輪郭が曖昧になる。
(……)
目は開いているのに、
何も見ていない感覚。
考えようとすれば、
いくらでも思い出せるはずなのに、
今日は、何も浮かばない。
浮かべない。
ただ、静かに時間が流れる。
呼吸の音だけが、やけに近い。
胸の奥に、
ぽっかりとした感覚がある。
重くもなく、軽くもない。
痛みとも違う。
寂しさとも、少し違う。
ただ――
空いている。
何かがあったはずの場所が、
そのまま残っているみたいに。
埋めようとも思わない。
触れようともしない。
そこにあることだけを、
受け入れている。
(……)
ゆっくり目を閉じる。
暗闇の中でも、
その“空白”だけは消えない。
形も、名前もないまま、
ただ、そこにある。
何も言わずに、
ずっと残り続けていた。




