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91 写真

 

 夜。


 部屋の明かりは、スマホの光だけ。


 ベッドに寝転がって、

 何気なく画面を開く。


 指が、無意識に動く。


 写真フォルダ。


 スクロール。


 最近のもの。

 仕事のメモみたいな写真。

 どうでもいい風景。


 さらに下へ。


 時間を遡る。


 指が、少しだけ遅くなる。


 見覚えのある色。

 見覚えのある空気。


 そして――


 止まる。


(二人で写ってる)


 小さな画面の中。


 並んで笑っている。

 距離が近くて、

 当たり前みたいに隣にいる。


 指が、そのまま画面の上で止まる。


 タップすれば、


 きっとはっきり見える。


 あの日の空気も、

 声も、

 全部、思い出せる気がする。


 でも――


 動かない。


 開かない。


 開いたら、


 戻れなくなる気がした。


 今の“普通”に。


 今の距離に。


 やっと保っている、

 この静かなバランスに。


(……)


 ほんの一瞬だけ、迷う。


 それでも、


 指を離す。


 画面を閉じる。


 暗くなる。


 部屋も、また静かになる。


 さっきまでそこにあったはずの“二人”は、


 もう見えない。


 見なかったことにするみたいに。


 でも――


 完全には消えない。


 まぶたの裏に、


 ぼんやりと残る。


 それを振り払うように、


 スマホを伏せる。


 天井を見る。


 何もない。


 何も変わらない。


 ただ、


 見なかったことにした記憶だけが、


 静かにそこに残っていた。

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