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80 戻らない

 

 夜の帰り道。


 街灯の白い光が、一定の間隔で足元を照らしている。

 通り過ぎるたびに、影が伸びて、消えて、また現れる。


 並んで歩く。


 会話はない。


 でも、昨日の“ズレてる”という言葉だけが、

 まだ空気の中に残っているみたいだった。


「戻れると思う?」


 凛が、前を見たまま言う。


 振り向かない。


 その声は、静かで、


 どこか最初から期待していないような響き。


「……分からん」


 少しだけ間を置いて答える。


 正直な言葉。


 でも、逃げでもある。


 はっきり「戻れる」とも言えないし、


「無理だ」と断言する勇気もない。


「だよね」


 凛が小さく頷く。


 その動きが、街灯の光で一瞬だけ浮かぶ。


 そして――


 笑う。


 いつもの笑顔に似ている。


 でも、


 どこか遠い。


 距離の問題じゃない。


 すぐ隣にいるのに、


 届かない場所で笑っているみたいな感覚。


 風が吹く。


 髪が揺れる。


 その隙間で、一瞬だけ横顔が見える。


 やっぱり、少しだけ寂しそうで。


「……」


 何か言いたい。


 言わなきゃいけない気もする。


 でも、


 “戻れないかもしれない”って前提の会話のあとで、


 何を言えばいいのか分からない。


 足音が続く。


 一定のリズム。


 でも、どこか重い。


 前は、


 同じ方向を向いて歩いていたはずなのに。


 今は、


 同じ道を歩いているだけで、


 進んでいる先が違う気がする。


 戻らない。


 まだ決まったわけじゃない。


 でも、


 戻れるとも言えない。


 その曖昧な状態が、


 一番残酷で、


 一番現実だった。


 街灯の光を抜けるたびに、


 二人の影が一瞬だけ重なって、


 すぐに離れる。


 その繰り返しが、


 今の関係そのものみたいだった。

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