79 ズレの正体
帰り道。
空はすっかり暗くなっていて、
街灯の光がアスファルトにぼんやりと広がっている。
人通りはまばらで、
遠くの車の音だけが、低く響く。
並んで歩く。
距離は、前より少しだけ空いている。
意識しなくても、それが“自然”になってしまっている。
「ねえ」
凛が口を開く。
静かな声。
「なに」
少し遅れて返す。
「なんかさ」
一歩、間がある。
言葉を選んでいるみたいな間。
「うん」
促すように返す。
「ズレてるよね」
その一言。
軽く言ったようで、
ちゃんと重い。
「……」
足が一瞬だけ止まりそうになる。
でも、止まらない。
そのまま歩く。
言葉だけが、残る。
ズレてる。
ずっと感じていたこと。
でも、言葉にはしなかったこと。
言葉にしたら、
本当にそうなってしまう気がして。
「……ああ」
認める。
初めて。
はっきりと。
口に出して。
風が吹く。
冷たい。
二人の間を、すっと抜けていく。
「……そっか」
凛が小さく頷く。
どこか納得したみたいに。
その反応に、
胸が少しだけ痛む。
気づいてなかったわけじゃない。
お互いに。
ずっと分かっていた。
でも、
見ないふりをしていた。
言わないことで、
保っていたものがあった。
それを、
今、崩した。
足音だけが続く。
前よりも、少しだけ重いリズムで。
「……」
何か続けるべきなのに、
何も出てこない。
ズレてるって認めたあとに、
どうすればいいのか分からない。
戻すのか、
そのまま進むのか、
それとも――
別々になるのか。
答えはない。
ただ、
一つだけはっきりした。
この違和感は、
気のせいじゃなかった。
隣にいるのに、
同じ方向を向いていない。
その事実だけが、
夜の中で、静かに浮かび上がっていた。




