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恋愛病死 ― 愛は、最後に名前がつく ―  作者: 椿
第6章:すれ違い
75/93

75 すれ違い

 

 帰り道。


 夕方はもう終わりかけていて、

 空の色は薄く、夜に溶け始めている。


 街灯が一つ、また一つと灯る。


 隣を歩いている。


 でも、


 間にある空間が、はっきりと広い。


 肩と肩の距離。


 たったそれだけなのに、


 前とはまるで違う。


 足音がずれる。


 リズムが合わない。


 どちらも合わせようとしていないわけじゃない。


 でも、自然に揃うこともない。


 手は――


 もう触れない。


 あのときみたいに、


 偶然触れることも、


 意識して近づけることも、


 ない。


 ただ、ぶら下がっているだけ。


 何も掴まないまま。


「……」


 言葉が出ない。


 何か言えばいいのに、


 何も浮かばない。


 凛も同じで、


 前を見たまま歩いている。


 横顔は見えるのに、


 その表情までは読み取れない。


 風が吹く。


 少し冷たい。


 季節が変わるみたいに、


 全部が変わっていく気がする。


 いつも別れる角が見えてくる。


 何度も通った場所。


 何度も「また明日」と言った場所。


 でも今日は――


 そこに近づくほど、


 足取りが少しだけ重くなる。


 立ち止まらない。


 どちらも。


 止まったら何か言わなきゃいけない気がして、


 そのまま歩く。


 角の手前で、


 自然に、足が止まる。


 ほんの少しだけ。


「じゃあ」


 凛が言う。


 短い言葉。


 それだけ。


「……ああ」


 それしか返せない。


 目は合わせない。


 合わせたら、


 何かが崩れそうで。


 凛が先に歩き出す。


 背中が遠ざかっていく。


 小さくなる。


「……」


 呼べば、まだ間に合う気がする。


 何か言えば、変えられる気もする。


 でも――


 動けない。


 振り返らない。


 振り返れない。


 自分も、そのまま反対方向に歩き出す。


 足音が一人分になる。


 さっきまで隣にあった気配が、


 急に消える。


 同じ道を歩いていたはずなのに、


 いつの間にか、


 別々の方向に進んでいる。


 それが、


 はっきりと分かる。


 すれ違い。


 ただそれだけのことなのに、


 もう戻れないくらい、


 遠く感じた。

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