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恋愛病死 ― 愛は、最後に名前がつく ―  作者: 椿
第6章:すれ違い
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74 愛に、なれるのかな

 

 数日後。


 放課後の校舎裏。

 人の気配がほとんどない場所。

 コンクリートの壁に、夕方の薄い光が当たっている。


 少し風が吹く。

 乾いた音で、どこかの窓が小さく揺れる。


 久しぶりに会う。


 それだけなのに、距離の取り方が分からない。


「ねえ」


 凛が先に口を開く。


「……なに」


 少し間が空く。

 声が、うまく出ない。


 凛はこっちを見ている。

 でも、その視線はどこか静かすぎる。


 怒っているわけでもない。

 泣いているわけでもない。


 ただ、決めてきたみたいな目。


「私たちさ」


 風がまた吹く。

 髪が少し揺れる。


「うん」


 短く返す。


 その一言だけで、喉が少し詰まる。


「愛に、なれるのかな」


 静かな声。


 問いかけというより、確認みたいな響き。


 逃げ場のない言葉。


「……」


 何も言えない。


 頭の中で、いくつも言葉が浮かぶ。


 でも、どれも違う気がして、


 全部消える。


 名前をつけなかった関係。


 曖昧で、


 都合がよくて、


 心地よかった距離。


 手をつないで、


 笑って、


 ほぼ恋人みたいで、


 でも――


 “ちゃんと”じゃなかった。


(……あのとき)


 花火の夜。


 言いかけて、やめた言葉。


 あのまま進んでいたら、何か変わっていたのかもしれない。


 でも今は、


 その“先延ばし”が、そのまま残っている。


 答えを求められているのに、


 答えを持っていない。


「……分からん」


 やっと出た言葉。


 情けないくらい、弱い。


 凛は少しだけ目を伏せる。


「そっか」


 小さく頷く。


 否定もしない。


 責めもしない。


 ただ、受け取る。


 その反応が、余計に刺さる。


「ごめん」


 思わず言う。


 何に対してかも、はっきりしないまま。


 凛は首を横に振る。


「謝ることじゃないよ」


 少しだけ笑う。


 でも、その笑顔はもう、


 前と同じじゃない。


「私も、分かんないから」


 そう言いながら、


 一歩だけ距離を取る。


 ほんの少し。


 でも、それがはっきり分かるくらいの距離。


 夕方の光が、さらに弱くなる。


 影が、長く伸びていく。


 二人の間に、


 言葉にしなかった時間と、


 名前をつけなかった関係が、


 そのまま横たわっているみたいだった。


 愛に、なれるのか。


 その問いに、


 まだ、誰も答えられない。

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