73 既読無視
夜。
部屋の明かりはついているのに、どこか暗く感じる。
机の上には開きっぱなしの教科書。
でも、一行も頭に入ってこない。
スマホを手に取る。
画面がやけに明るい。
トーク画面を開く。
少しだけ迷って、
指が止まる。
(……でも)
打つ。
『ごめん』
短い一言。
送信。
既読がつく。
すぐに。
(……)
そのまま、待つ。
画面を見つめたまま。
通知音が鳴る気がして、
何度も画面を見直す。
でも、何も変わらない。
時間だけが進む。
秒針の音が、やけに大きく聞こえる。
カチ、カチ、と規則的に刻まれるたびに、
胸の奥が少しずつ重くなる。
(まだだろ)
(すぐ返すタイプじゃないし)
自分に言い聞かせる。
一度スマホを伏せる。
でも――
数秒後、また手に取る。
変わっていない画面。
既読のまま。
返信はない。
ベッドに倒れ込む。
天井を見上げる。
何も考えないようにしても、
さっきの会話が浮かぶ。
あの言葉。
あの表情。
涙。
「……」
小さく息を吐く。
もう一度、スマホを見る。
やっぱり、何も来ていない。
(……まあ、寝てるのかもな)
そう思おうとする。
でも、
さっきはすぐ既読がついた。
つまり――
見ている。
見た上で、
返していない。
胸の奥が、じわっと痛む。
あのときの“既読無視”とは違う。
軽く流されただけじゃない。
今は――
はっきりと距離を置かれている。
そう分かる。
時間が経つ。
それでも、
何も来ない。
画面の光だけが、暗い部屋で浮かんでいる。
今度は――
本当に返ってこない。
その事実だけが、
静かに、確実に、
突き刺さっていた。




