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恋愛病死 ― 愛は、最後に名前がつく ―  作者: 椿
第6章:すれ違い
70/99

70 逃げ

 

 昼休み。


 教室はざわざわしていて、

 あちこちで笑い声や椅子の音が混ざっている。


 その中で、二人の間だけ少し静かだった。


 窓際の席。


 外は晴れているのに、空気はどこか重い。


「今度の休みさ」


 何気ないふりをして、声をかける。


「うん」


 凛はパンの袋を開けながら、軽く返す。


「どっか行く?」


 少しだけ間を置いて、言う。


 前なら、もっと自然に言えたはずの言葉。


「……ごめん、その日無理」


 すぐじゃない。


 ほんの一拍遅れてからの返事。


「最近多くない?」


 思ったままが出る。


 抑えられなかった。


「……そう?」


 凛は目を上げずに言う。


 視線はずっと手元のまま。


「避けてる?」


 一歩踏み込む。


 聞かないほうがいいって、どこかで分かっているのに。


「避けてない」


 即答。


 迷いはない。


 言葉だけなら、はっきりしてる。


 でも――


 そのあと。


 一瞬だけ。


 視線が揺れる。


 そして、逸らす。


 窓の外へ。


 何かから逃げるみたいに。


「……」


 その沈黙が、答えみたいに感じる。


 教室のざわめきが急に遠くなる。


 周りは変わってないのに、


 ここだけ切り取られたみたいに静かになる。


「ほんとに?」


 重ねて聞きそうになる。


 でも――


 やめる。


 これ以上踏み込んだら、


 何かが決定的に壊れそうで。


「……」


 凛は何も言わない。


 ただ、パンを一口かじる。


 味なんて分かってなさそうな顔で。


「……そっか」


 結局、それしか言えない。


 軽く流すみたいに。


 何もなかったことにするみたいに。


 凛は小さく頷く。


「うん」


 それだけ。


 会話は終わる。


 あっさりと。


 でも、


 その“終わり方”が、


 やけに引っかかる。


 逃げてる。


 はっきりとは言わないけど、


 確実に距離を取っている。


 それが分かってしまう。


 でも――


 追えない。


 追ったら、


 本当に離れていく気がして。


 だから、


 何も言えないまま、


 時間だけが過ぎていった。

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