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60 ズレの蓄積

 

 昼休み。


 教室は文化祭の話で少し浮ついていた。


「どのクラスが何やるらしい」とか、

「うち何やる?」とか、

 そんな声があちこちで飛び交っている。


 ポスターの案を考えているやつ。

 もうサボる気満々のやつ。


 いつもより、少しだけ未来の話が多い空気。


「うち何やるんだろうな」


「どうせ食べ物系じゃね」


「またかよ」


 そんな他愛ない会話。


 机を寄せて、いつも通りの距離で。


 凛も、ちゃんと笑っている。


「来年はさ――」


 何気なく言った。


 本当に、何も考えずに。


「もっとちゃんとしたのやりたいよな」


 その瞬間。


「来年の話はいいよ」


 凛が、少しだけ早く言葉を被せる。


「……なんでだよ」


 思わず聞き返す。


 凛は一瞬だけ視線を落として、


 すぐに、笑う。


「なんとなく」


 軽く言う。


 そのままジュースを飲む。


 ストローをくわえる仕草も、いつも通り。


 でも――


(……固い)


 笑い方が、少しだけぎこちない。


 ほんの一瞬だけ、


 表情が止まった気がした。


 周りはまだ騒がしい。


 文化祭の話で盛り上がっている。


 未来の話を、楽しそうにしている。


 その中で――


 ここだけ、少しだけ温度が違う。


「……」


 何か言おうとする。


 でも、


 “なんとなく”で片付けられたものに、


 それ以上踏み込む理由が見つからない。


 凛はまた普通に会話に戻る。


「てかさ、絶対準備めんどいよね」


「それな」


 笑う。


 ちゃんと、いつも通りに。


 でも、


 さっきの一瞬だけが、


 妙に残る。


 “来年”


 その言葉を、


 避けた。


 理由は分からない。


 でも、偶然じゃない気がする。


 小さなズレ。


 ほんの少しの違和感。


 それが、


 一つじゃなくなってきている。


 気のせいで済ませるには、


 少しずつ、


 重なり始めていた。

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