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06 観察継続中

 

 授業中。


 教室にはチョークのこすれる音が静かに響いていた。

 黒板に文字が増えていくたび、白い粉がふわっと舞う。


 窓から入る春の風が、カーテンをゆるく揺らしている。

 外では遠くの体育の掛け声がかすかに聞こえて、時間がゆっくり流れているみたいだった。


(チラッ)


 視線を感じる。


(また見てる)


 横を見るまでもなく分かる。

 ノートにペンを走らせるふりをしながら、小さく息をつく。


「……なに」


 できるだけ小さな声で聞く。


 凛は頬杖をついたまま、じっとこっちを見ていた。


「表情が変わる瞬間、面白い」


「見世物じゃねえ」


「今ちょっと照れた」


「照れてねえ」


 即答する。


 けど、その一瞬の間を見逃さないみたいに、凛は楽しそうに目を細める。


「熱、上がってるね」


「だからやめろって」


 ペン先がノートに軽く当たって、コツンと小さな音が鳴る。


 そのとき。


 先生がふっとこちらを見た。


「そこ、静かに」


 教室の空気が一瞬だけ張りつめる。


「「すみません」」


 ほぼ同時に声が重なった。


 そのあと。


 一瞬だけ、沈黙。


 次の瞬間、俺と凛は顔を見合わせる。


 ――なんか、おかしくて。


 小さく、笑った。


 声を出さないように、でも抑えきれないみたいに。


 また先生の視線を感じて、慌てて前を向く。


 黒板の文字が、少しだけぼやける。


(……なんだこれ)


 特別なことなんて、何も起きていない。


 ただ、ちょっと話して、

 ちょっと怒られて、

 ちょっと笑っただけ。


 それだけなのに。


 胸の奥に、ほんの少しだけ温かいものが残る。


 窓の外では、風がまたカーテンを揺らした。


 その揺れに合わせるみたいに――


 こういう瞬間が、少しずつ増えてきていた。

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