59 病院という単語
翌日。
教室。
朝の光が差し込んで、
昨日と同じようにカーテンが揺れている。
でも今日は――
その席に、凛がいる。
(……いる)
それだけで、少しだけ力が抜ける。
「おはよう」
「おはよう」
いつも通りのやり取り。
声も、表情も、普通。
昨日休んでた感じなんて、ほとんどない。
昼休み。
机を寄せる。
自然な流れで、また隣同士になる。
「昨日さ」
凛がパンの袋を開けながら言う。
「うん」
「病院行ってきた」
さらっと。
本当に、なんでもないことみたいに。
「え?」
思わず顔を上げる。
凛は特に気にした様子もなく、
普通にパンをかじっている。
「検査だけ」
「……大丈夫なのか」
少しだけ声が低くなる。
自分でも気づくくらい。
凛は軽く頷く。
「うん、大したことない」
即答。
間もない。
迷いもない。
だからこそ――
(……ほんとか?)
一瞬だけ思う。
でもその前に、
「てかさ、昨日の課題やった?」
凛が話を変える。
いつもみたいに。
強引でもなく、自然に。
「あー……やってねえ」
「でしょ」
くすっと笑う。
そのまま、いつもの会話に戻る。
周りの声も混ざって、
昼休みの空気が流れていく。
でも――
さっきの一言だけが、残る。
“病院”
その単語だけが、
妙に引っかかる。
(検査だけって言ってたしな)
自分の中で整理する。
大したことない。
本人もそう言ってる。
それ以上考える理由はない。
凛は普通に笑っている。
昨日と同じように。
いや、いつも通りに。
なのに――
その“いつも通り”の中に、
ほんの少しだけ、
触れてはいけない何かが混ざった気がした。




