58 休みの日
朝。
教室に入ると、いつもの席がひとつ空いていた。
窓際。
光が差し込むその場所だけ、ぽっかりと抜けている。
(……いない)
凛がいない。
一瞬だけ、違和感。
でもすぐに納得する。
「珍しいな」
思わず小さく呟く。
風が吹いて、カーテンが揺れる。
その向こうの空は、やけに晴れていた。
こんな日に限って、いない。
席に座る。
なんとなく、そっちを見てしまう。
誰もいない机。
置かれていない鞄。
それだけで、少しだけ静かに感じる。
「休みらしいぞ」
友達が言う。
「ああ」
軽く返す。
特に気にしてないふりをする。
実際――
(まあ、大丈夫だろ)
そう思う。
凛は体調崩すタイプじゃないけど、
たまにはあるだろう、くらいの感じ。
昼休み。
スマホを取り出す。
少しだけ迷ってから、メッセージを送る。
『大丈夫か?』
既読は、すぐついた。
少しして、返信。
『ちょっと体調悪いだけ』
それだけ。
短い。
いつもなら、もう少し何かついてくる。
絵文字とか、余計な一言とか。
でも今日は、それがない。
(……まあ)
画面を閉じる。
(大丈夫だろ)
そう思う。
本気で心配するほどじゃない。
ただの体調不良。
よくあること。
教室のざわめきに戻る。
誰かが笑って、誰かが騒いで、
日常は普通に進んでいく。
でも――
ふとした瞬間に、
視線があの席に向く。
空っぽの場所。
そこに誰もいないことが、
ほんの少しだけ、
引っかかった。




