57 いつもの帰り道
帰り道。
夕方の空は淡く色づいていて、
昼の熱が少しだけ残った風が、ゆっくりと通り過ぎていく。
いつもの道。
いつもの並び。
何も変わらないはずなのに――
歩き出してすぐ、気づく。
(……遅い)
ほんの少しだけ。
でも、確かに。
歩くペースが、いつもよりゆっくりだ。
「疲れてる?」
隣を見ずに聞く。
「ちょっとだけ」
凛は軽く答える。
その声は普通。
いつもと同じ調子。
でも、どこか力が抜けているような。
「無理すんな」
「してないよ」
すぐに返ってくる。
そして、笑う。
その笑顔も、ちゃんと凛のもの。
――なのに。
(……薄い)
何かが足りない。
いつもみたいに、自然に引き込まれる感じがない。
少しだけ距離があるような、
そんな違和感。
風が吹く。
凛の髪が揺れて、
夕焼けの光がその隙間をすり抜ける。
その横顔は、いつも通り綺麗で、
でも、
どこかぼんやりして見える。
「……」
何か言おうとする。
でも、言葉が出てこない。
“大丈夫?”は、さっき聞いた。
それ以上踏み込む理由が、見つからない。
凛は前を見たまま歩いている。
歩幅は合わせてくれている。
でも、
ほんの少しだけ遅い。
その“ほんの少し”が、
妙に気になる。
足音が、静かに重なる。
いつもよりゆっくりなリズムで。
「ねえ」
凛が小さく言う。
「なに」
「今日さ」
「うん」
一瞬、言葉が途切れる。
でも、そのまま首を振る。
「……やっぱいいや」
「なんだよ」
「なんでもない」
また、笑う。
やっぱり、いつも通りに。
でも――
その笑顔は、
どこか遠くにあるみたいだった。
夕焼けが少しずつ薄れていく。
影が長く伸びて、
二人の間に、わずかなズレを作る。
距離は同じ。
並んで歩いている。
それなのに、
どこかだけが、
ほんの少しだけ、
噛み合っていなかった。




