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56 ちょっとしたズレ

 

 昼休み。


 教室は、いつも通りの騒がしさに包まれている。

 誰かが机を囲んで笑っていて、

 窓際では風にカーテンがゆっくり揺れている。


 パンの袋を開ける音。

 スマホの通知音。

 全部が、いつもと同じ。


 なのに――


 どこかだけ、少し違う。


「ねえ」


 凛が机に頬杖をついたまま、こっちを見る。


「なに」


 パンをかじりながら返す。


「今日さ」


「うん」


 少しだけ間。


 ほんのわずか、言葉を選んでるみたいな。


「ちょっとだけだるい」


「大丈夫か?」


 すぐに聞き返す。


 凛は軽く肩をすくめて、笑う。


「うん、平気」


 いつも通りの声。


 いつも通りの表情。


 ちゃんと笑ってる。


 ――はずなのに。


(……なんか)


 違和感。


 ほんの少しだけ。


 言葉にできないくらい小さいズレ。


 凛はストローをくわえて、ジュースを飲む。


 その仕草も、いつも通り。


 でも、動きが少しだけゆっくりな気がする。


 目も、ほんの少しだけ伏せがちで。


「ほんとに大丈夫かよ」


「大丈夫だって」


 くすっと笑う。


「心配しすぎ」


「……別に」


 視線をそらす。


 周りの笑い声が、少しだけ大きく聞こえる。


 凛は窓の外を見る。


 風が吹いて、カーテンがふわりと膨らむ。


 その向こうの空は、やけに明るいのに――


「……」


 なぜか、


 その横顔が少しだけ遠く見えた。


 距離は変わってない。


 すぐ隣にいるのに。


 手を伸ばせば届くのに。


(気のせいか)


 そう思う。


 そう思うしかないくらい、小さな違和感。


 凛はまたこっちを見て、笑う。


 ちゃんと、いつも通りに。


 その“いつも通り”が、


 ほんの少しだけ、


 引っかかった。

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