53 未来の話②
帰り道。
雨は上がっていた。
さっきまで濡れていたアスファルトが、
街灯の光をぼんやり反射している。
空気は少しひんやりしていて、
夏の終わりみたいな匂いがした。
水たまりを避けながら、並んで歩く。
さっきまでの傘は閉じられて、
でも距離は、そのままだった。
「将来さ」
凛がぽつりと呟く。
「うん」
前を見たまま返す。
少しだけ、声が静かになる。
「もし離れたらどうする?」
足が、ほんの一瞬だけ止まりそうになる。
(……なんで今それ聞くんだよ)
でも、聞き返せなかった。
ただ、考える。
離れる。
その言葉だけが、妙に現実味を持って胸に残る。
「……考えたくない」
やっと出た言葉は、それだけだった。
考えたくない。
想像したくない。
今この距離が、なくなるなんて。
凛は少しだけこちらを見る。
その横顔は、街灯に照らされて柔らかくて――
どこか遠くを見ているみたいだった。
「そっか」
小さく頷く。
それ以上は、何も聞かない。
少しだけ間。
夜の静けさが、そのまま二人の間に落ちる。
「私も」
凛が言う。
少しだけ笑いながら。
でもその笑いは、
昼間みたいに軽いものじゃなくて、
どこか、隠しているみたいな笑い方だった。
風が吹く。
濡れた道路の匂いが、ふわっと広がる。
さっきまでの近さが、
ほんの少しだけ遠く感じる。
同じ距離にいるのに。
同じ歩幅なのに。
「……なあ」
思わず声をかける。
でも、その先は出てこない。
何を言えばいいのか、分からない。
凛は何も言わずに歩いている。
ただ、少しだけ近づく。
肩が、触れる。
そのまま、離れない。
まるで――
今だけは離れないように、確かめるみたいに。
未来の話なのに、
今の距離を、確かめているみたいだった。




