52 雨
放課後。
空は朝からずっと重くて、
帰る頃には、しっかりと雨が降り出していた。
校舎の軒先に、雨粒が規則的に落ちる音。
アスファルトに弾ける水しぶき。
街全体が、少しだけ静かになる時間。
「雨か」
「まただね」
凛が隣に立つ。
同じ場所。
同じシチュエーション。
最初に相合傘をした日と、まるで同じ。
違うのは――
俺たちだけ。
「入るぞ」
「うん」
傘を開く。
ぱっと広がる小さな世界。
その中に、二人。
一歩踏み出す。
肩が触れる。
前も触れていたはずなのに、
今日はその感覚が、やけに意識に残る。
距離が近い。
前より、明らかに。
避けようとしていない。
むしろ、自然に寄っている。
「まただな」
「だな」
同じ言葉。
でも、響き方が違う。
歩く。
水たまりを避けながら、ゆっくりと。
雨音が、会話の隙間を埋めていく。
「ねえ」
凛が少しだけ顔を寄せてくる。
「なに」
「前よりドキドキしてる?」
「……ああ」
間を置かずに答える。
前なら誤魔化していた。
でも今は、もう誤魔化さない。
凛が一瞬だけ驚いて、
それから、ふっと笑う。
「進行してるね」
「お前のせいだ」
「知ってる」
少しだけ得意げな顔。
雨粒が傘を叩く音が、少し強くなる。
風が吹いて、傘が揺れる。
その瞬間、
凛がぐっと近づく。
腕が触れる。
肩が、完全に寄る。
(……近い)
でも、離れない。
離したくない。
「ねえ」
「なに」
「前はさ」
「うん」
「こんな近くなかったよね」
「……そうだな」
「進行って怖いね」
「……そうかもな」
口ではそう言いながら、
心のどこかで思う。
(悪くない)
むしろ――
この距離が、ちょうどいい。
雨の中。
小さな傘の下。
世界は少しだけぼやけているのに、
この距離だけは、やけに鮮明だった。




