51 ほぼ恋人②
昼休み。
教室の空気は少しだけゆるくて、
窓から入る風がカーテンを揺らしている。
周りでは誰かが騒いでいて、
別の誰かは机に突っ伏して寝ている。
そんな、いつもの昼。
なのに――
俺たちの間だけ、少し静かだった。
「ねえ」
凛が机に頬杖をついたまま言う。
「なに」
ペットボトルのキャップをいじりながら返す。
「これってさ」
「うん」
少しだけ間。
その間に、なんとなく意味がある気がする。
「付き合ってるのと何が違うの?」
「……分からん」
正直に答える。
考えてみても、違いなんて思いつかない。
一緒に帰るし、
手もつないだし、
名前で呼ぶし。
昨日だって――
(……いや、考えるな)
「だよね」
凛が小さく笑う。
その笑い方は、どこか納得しているみたいで、
でも少しだけ寂しそうにも見える。
風がまた吹く。
カーテンがふわりと揺れて、
光が一瞬だけ揺らぐ。
凛の髪も、少しだけ揺れる。
その距離は近い。
手を伸ばせば触れられる距離。
でも、教室だからか、
昨日みたいには触れられない。
触れない理由が、はっきりあるわけじゃないのに。
「名前、つける?」
凛がぽつりと呟く。
「……どういう意味だよ」
「この関係に」
「……」
言葉に詰まる。
“恋人”って言えば、簡単だ。
でも――
それを言った瞬間、
何かが変わる気がする。
今のこの曖昧さが、
壊れてしまう気がする。
「つけなくてもよくない?」
気づけばそう言っていた。
凛は少しだけ目を丸くして、
それから、ふっと笑う。
「うん」
小さく頷く。
「そのままでいいか」
「……ああ」
また、少しだけ静かな時間。
周りの騒がしさとは関係なく、
ここだけゆっくり流れているみたいな感覚。
名前はない。
はっきりした形もない。
でも――
確かにある距離。
それが、今は一番しっくりきていた。




