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05 相互感染

 

 昼休み。


 教室は朝とは別の熱を帯びていた。

 笑い声があちこちで弾けて、机を寄せる音や袋を開ける音が重なる。


 どこか油っぽいパンの匂いと、弁当の甘い匂いが混ざって、空気が少しだけ重たい。


 俺は窓際の席で、ぼんやりと外を見ながらパンの袋を開けていた。

 校庭では、昼休みを待ちきれなかったやつらがもう走り回っている。


 そのとき。


「結論出た」


 隣から、やけに満足げな声。


「なにが」


 振り向くと、凛が当然のように椅子を引いて座っている。

 もうこの光景にも、少し慣れてきている自分がいるのが、なんとなく嫌だ。


「ユウタ、感染してる」


「してねえって」


「じゃあ質問」


「なんだよ」


 凛は肘を机について、少しだけ顔を近づけてくる。


 周りのざわめきが、その分だけ遠くなる。


「私が他の男子と仲良くしてたらどう思う?」


「別に……」


 言いかけて、止まる。


 ほんの一瞬。


 頭の中に、見たくもない想像が浮かぶ。

 凛が、他のやつと笑って話しているところ。


「……まあ、ちょっとは気になる」


 自分でも驚くくらい、素直な言葉が出た。


「はい確定」


 間髪入れずに言われる。


「いや今のは普通だろ!」


「嫉妬=(イコール)発熱」


「医学的根拠ゼロだろ」


「でも当たってる」


 にやっと笑う凛。


 ぐうの音も出ない。


 反論しようとしても、さっきの一瞬が邪魔をする。


(……くそ)


 パンをかじる。

 味がよく分からない。


「安心して」


「なにが」


 凛は少しだけ目を細める。


 さっきまでのからかう感じとは、ほんの少しだけ違う。


「私も感染してるから」


「……は?」


 思考が、止まる。


 教室の音が、一瞬だけ遠のいた気がした。


「だからこれは“相互感染”」


「言い方やめろ」


「運命だね」


「軽いな!!」


 思わずツッコむと、凛はくすっと笑う。


 その笑いは、いつもより少しだけやわらかい。


 窓の外で、風が吹く。

 校庭の砂がふわっと舞い上がって、光の中で揺れる。


 教室の中も、相変わらず騒がしいままなのに――


 その一言だけが、妙に残る。


 “相互感染”


 冗談のはずの言葉。


 軽く流すべきはずの一言。


 なのに。


 胸の奥に、静かに沈んでいく。


 消えないまま、残る。


(……なんだよ、それ)


 パンの袋をくしゃっと握る。


 隣では、凛がいつも通りの顔で笑っている。


 でも――


 その距離が、昨日より少しだけ近く感じた。

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