48 花火②
夜。
花火はまだ続いている。
大きな音と光が、一定のリズムで夜空を切り裂く。
人のざわめきはあるのに、
この場所だけ少しだけ静かに感じる。
隣にいる。
手も、まだ繋いだまま。
離す理由が、もう見つからない。
「ユウタ」
凛が呼ぶ。
花火の光に照らされた横顔。
「なに」
自然に返す。
でも、どこか緊張している自分がいる。
「私さ――」
その言い方。
少しだけ、いつもと違う。
言葉の先に、何かがあるのが分かる。
(言うのか?)
心臓が、強く鳴る。
(今か?)
このタイミング。
この空気。
この距離。
全部が揃ってる。
逃げ場がないくらいに。
凛が、ほんの少しだけ息を吸う。
でも――
「……やっぱいいや」
止める。
あっさりと。
「は?」
思わず声が出る。
「今じゃない」
さらっと言う。
何でもないことみたいに。
「なんだそれ」
少し強くなる。
期待した分だけ。
「タイミングってあるでしょ」
凛が笑う。
いつもの調子。
軽い言い方。
でも――
その笑いの奥に、
ほんの少しだけ違うものが見える。
花火が上がる。
強い光が、二人の表情を一瞬だけ照らす。
その一瞬。
凛の目が、少しだけ揺れているのが見えた。
寂しそうで、
でも、どこか決めているような。
「……」
何も言えない。
さっきまで自分が言えなかった言葉。
今度は、凛が飲み込んだ。
同じ場所で。
同じように。
花火の音が、少し遅れて響く。
ドン、と胸に落ちる。
「ねえ」
凛が小さく言う。
「なに」
「覚えといて」
「……何を」
少しだけ間を置いて、
「今じゃないってこと」
そう言って、また空を見る。
その言い方が、
やけに引っかかる。
“今じゃない”。
つまり――
“いつかはある”。
そう聞こえてしまう。
でも、それがいつなのかは分からない。
分からないまま、
時間だけが進んでいく。
繋いだ手は、そのまま。
離れていないのに、
さっきより少しだけ遠く感じる。
花火がまた夜空に広がる。
一瞬の光。
すぐに消える。
その繰り返し。
今のこの瞬間も、
きっと同じで。
止まってほしいと思っても、
止まらない。
凛の横顔を、もう一度見る。
さっきと同じはずなのに、
どこか少しだけ遠い。
その距離が――
言われなかった言葉の分だけ、
確かに広がっていた。




