47花火①
夜。
少し開けた場所に出ると、空が広く見えた。
屋台のざわめきが少し遠のいて、代わりに人の静かな期待がその場を満たしている。
次の瞬間――
夜空に光が弾ける。
大きな花火が、音を引き連れて広がった。
赤、青、金色。
一瞬で咲いて、一瞬で消える。
「きれいだね」
凛が、空を見上げたまま言う。
その横顔が、花火の光で一瞬ずつ照らされる。
「そうだな」
短く返す。
でも視線は、花火と凛の間を行き来している。
ドン、と遅れて響く音が、胸の奥まで震わせる。
さっきまで繋いでいた手。
今も、そのまま。
ほどく理由が見つからない。
「ねえ」
凛が言う。
「なに」
「今さ」
少しだけ、間。
次の花火が上がる前の、静かな一瞬。
「うん」
「ちょっとだけ、時間止まってほしいと思った」
その言葉と同時に、
大きな花火が夜空いっぱいに広がる。
光が、全部を包む。
凛の表情も、周りの人も、
一瞬だけ“切り取られた”みたいに動かなく見える。
「……分かる」
自然に出た。
考える前に。
本当に、そう思ったから。
この時間。
この距離。
この空気。
全部そのままで、
どこにも進まなくていい気がした。
花火が消える。
夜空に残る、淡い煙。
また静けさが戻る。
でも、すぐ次の音が鳴る。
時間は止まらない。
次の花火が、また夜を照らす。
「でもさ」
凛が小さく言う。
「なに」
「止まらないんだよね」
少しだけ笑う。
寂しさと、受け入れてる感じが混ざった笑い。
「……ああ」
短く返す。
分かってる。
この時間も、
この関係も、
ずっとこのままではいられない。
それでも――
今だけは。
隣にいること。
手を繋いでいること。
同じ花火を見ていること。
それだけで、十分だった。
夜空にまた大きな花火が咲く。
その光の中で、
二人の影が、静かに並んでいた。




