46 夏祭り②
人混み。
屋台の間を埋めるように、人が流れていく。
提灯の光が揺れて、声と音が重なり合う。
少し油断すると、すぐ距離が開きそうになる。
「はぐれる」
凛が小さく言う。
「……あ」
返した瞬間――
手を取られる。
自然な動きだった。
迷いも、ためらいもなく。
「これなら大丈夫」
凛が前を向いたまま言う。
その手は、しっかり繋がっている。
「……ああ」
短く返す。
でも、頭の中はそれどころじゃない。
温度が、はっきり伝わる。
指と指が触れて、
ちゃんと“繋がっている”って分かる感覚。
さっきまでの、触れるだけの距離じゃない。
逃げ道のない距離。
(離せない)
というか――
(離したくない)
そのまま歩く。
人の流れに合わせて、自然に引かれる。
でもその感覚が、
どこか心地いい。
凛の手が、少しだけ力を込める。
離れないように。
確かめるみたいに。
胸の奥が、静かに熱くなる。
「ねえ」
凛が言う。
振り向かないまま。
「なに」
「ドキドキしてる?」
少しだけ、楽しむような声。
いつもなら、誤魔化す。
強がる。
でも――
今は違う。
「……してる」
小さく言う。
でも、はっきり。
初めて、自分から認める。
凛の手が、ほんの一瞬だけ止まる。
それから――
少しだけ振り向く。
驚いた顔。
ほんの少しだけ。
すぐに、その表情が崩れて。
笑う。
やわらかく。
嬉しそうに。
「そっか」
短い言葉。
でも、その中にいろんな感情が混ざっている。
また歩き出す。
今度はさっきよりも、少しだけゆっくり。
繋いだ手は、そのまま。
離さない。
人混みの中。
はぐれないための理由は、もう関係なくなっている。
ただ――
繋いでいたいだけ。
提灯の光が、二人の手元を照らす。
しっかりと重なった指。
その形が、
今までの曖昧な距離とは違うことを、はっきり示している。
戻れない。
でも、それでいい。
むしろ――
やっとここまで来た気がした。




