45 夏祭り①
夜。
神社まで続く道は、提灯の明かりでやわらかく照らされていた。
屋台の匂いと、遠くから聞こえる太鼓の音。
人のざわめきが、夏の夜に溶け込んでいる。
そんな中で――
凛が立っていた。
淡い色の浴衣。
いつもより少しだけ大人っぽくて、でもどこか変わらない雰囲気。
一瞬、言葉が出なくなる。
「浴衣どう?」
少しだけ照れたみたいに聞いてくる。
「似合ってる」
即答。
考える前に出た。
「珍しく素直」
凛がくすっと笑う。
「うるせえ」
目を逸らす。
でも、もう遅い。
顔が少し熱いのを自覚する。
提灯の光が、その熱をごまかしてくれている気がした。
凛は少しだけ満足そうに笑って、
「ユウタも、ちゃんと来てるね」
なんて言う。
「当たり前だろ」
すぐ返す。
「来ないかと思った」
軽い調子。
でも、その言葉に引っかかる。
「来るに決まってる」
少し強く言ってしまう。
自分でも分かるくらい。
凛が、ほんの少しだけ目を丸くする。
そのあと、やわらかく笑う。
「そっか」
短い一言。
でも、どこか嬉しそうで。
人の流れが二人の横を通り過ぎていく。
浴衣の袖が触れ合う。
普段とは違う距離感。
でも、不思議と違和感はない。
むしろ――
少しだけ特別に感じる。
屋台の灯りが揺れる。
金魚すくいの水面がきらきらと光っている。
「どこ行く?」
凛が聞く。
「どこでもいい」
そう答えると、
「じゃあ一緒に回ろ」
当然みたいに言う。
その言い方が、
さっきの自分の言葉と重なる。
“来るに決まってる”
言い過ぎたかもしれない。
でも――
嘘じゃない。
ここに来る理由は、一つしかないから。
凛の横に並ぶ。
少しだけ距離が近い。
人混みのせいにできるくらいの距離。
でも、それを利用してるのは確実で。
提灯の明かりの下、二人の影が揺れる。
その影は、
人の流れに紛れながらも、
ちゃんと隣に並んでいた。




