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42 距離のバグ

 

 帰り道。


 夕方の空は淡く色づいていて、昼と夜の境目みたいな時間。

 部活帰りの声が遠くに混ざって、街はゆっくり静かになっていく。


 何も言わなくても、自然と並ぶ。


 どっちが合わせたわけでもないのに、歩幅が揃う。


 足音が同じリズムで重なる。


 それが、当たり前みたいに続く。


「ねえ」


 凛が前を見たまま言う。


「なに」


「距離近くない?」


 ふとした一言。


 言われて初めて気づく。


 肩と肩の間。


 ほとんど隙間がない。


「今さら?」


 思わず返す。


「前から?」


 少しだけ疑うような声。


「最初から」


 適当に言う。


 半分は誤魔化しで。


「それは嘘」


 すぐ否定される。


「いやほんと」


「絶対違う」


 軽く言い合う。


(少し笑う)


 空気が柔らかくなる。


 でも――


 意識してしまう。


 距離。


 腕が、ほんの少し触れそうな位置。


 風が吹いて、凛の髪がこっちに流れる。


 一瞬だけ、触れる。


 すぐに離れる。


 でも、どちらも避けない。


「……まあいいけど」


 凛が小さく言う。


 少しだけ、照れたみたいな声で。


「何が」


「この距離」


 さらっと言う。


 でも、その言葉は少しだけ特別で。


 胸の奥が、静かに反応する。


 沈黙が落ちる。


 でも、気まずくはない。


 むしろ――


 ちょうどいい。


 夕焼けが、二人の影を長く伸ばす。


 その影は、ほとんど重なっていて。


 境目が分からないくらい近い。


(……違うな)


 心の中で思う。


「前から」じゃない。


 こんな距離じゃなかった。


 もっと、ちゃんと隙間があった。


 もっと、他人だった。


 でも今は――


 何も言わなくても近くて、


 触れそうで、


 それを当たり前に受け入れてる。


「なあ」


 思わず口を開く。


「なに」


「……いや、なんでもない」


 また、言葉を飲み込む。


 でも今度は、少し違う。


 焦りじゃない。


 ただ、この空気を壊したくなかっただけ。


 凛が小さく笑う。


「またそれ」


「うるせえ」


 軽く言い合う。


 そのやり取りさえ、心地いい。


 本当は――


 前よりずっと近い。


 距離も、


 関係も、


 気持ちも。


 それを言葉にしなくても、


 もう分かってしまっているくらいに。

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