41 ほぼ恋人①
昼休み。
教室は弁当の匂いと、にぎやかな声で満たされている。
机をくっつける音、笑い声、どこかで飛び交うくだらない会話。
その中で――
俺の席に、当然みたいに凛が座っている。
頬杖をついて、窓の外をぼんやり見ている姿。
完全に“自分の席”みたいな顔。
「それ俺の席」
「知ってる」
即答。
悪びれもない。
「どけ」
「やだ」
動く気ゼロ。
「なんでだよ」
「ここ落ち着く」
さらっと言う。
当たり前みたいに。
「俺は落ち着かねえ」
「嘘つき」
すぐ返される。
一瞬、言葉に詰まる。
(……否定できねえ)
近い距離。
机一つ分もない。
弁当の匂いよりも、凛のシャンプーの匂いの方が近く感じる。
「ほら、座れば?」
凛が少しだけ横にずれる。
スペースを空ける。
最初からそうするつもりだったみたいに。
「……狭いだろ」
言いながらも、座る。
結局。
肩が軽く触れる。
ほんの一瞬。
でも、それだけで意識する。
凛が少し笑う。
それを見て、こっちもつられて少しだけ笑う。
クラスメイトが、こっちを見る。
ニヤニヤした顔。
「お前ら付き合ってるだろ」
軽いノリで投げられる言葉。
「「違う」」
ほぼ同時。
でも――
声に力がない。
いつもみたいに即答なのに、どこか曖昧で。
否定しきれていない。
クラスメイトが「はいはい」と笑って去っていく。
その背中を見送りながら、
沈黙が少しだけ落ちる。
でも気まずくはない。
むしろ、自然すぎる。
凛が弁当を開ける。
「一個あげる」
「いらん」
「はい」
強制的に渡される。
受け取る。
結局。
「……うまい」
「でしょ?」
得意げに笑う。
そのやり取りも、
距離も、
空気も、
全部が当たり前みたいで。
ふと気づく。
(……これ)
言葉にしなくても分かる。
名前はついてない。
でも、
関係はもう、とっくに進んでいる。
肩がまた軽く触れる。
どちらも避けない。
そのまま。
教室のざわめきの中で、
俺たちだけが少し違う空気にいる。
もう“ただの友達”には戻れない。
でも――
恋人とも、少し違う。
その曖昧さごと、
心地よくなっている自分がいた。




