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40 発症完了

 

 翌日。


 教室の窓から入る朝の光が、机の上に白く広がっている。

 昨日の曇り空が嘘みたいに、今日はやけに晴れていた。


 その明るさが、少しだけ眩しい。


 ざわつく教室の中で、

 凛はいつも通りの席に座っている。


 昨日と同じ顔。


 同じ距離。


 でも――


 こっちの中身だけが、決定的に違っている。


「ねえ」


 凛が呼ぶ。


「なに」


「ユウタ」


 名前を呼ばれる。


 それだけで、胸が少しだけ強く鳴る。


「うん」


 短く返す。


 逃げ場はない。


「もう隠さなくていいよ」


 静かな声。


 でも、はっきりしている。


「……なにを」


 分かってるくせに、聞き返す。


 時間を引き延ばすみたいに。


「恋してるでしょ」


 その一言。


 教室の音が、一瞬だけ遠くなる。


 笑い声も、椅子の音も、全部ぼやける。


 残るのは、その言葉だけ。


(沈黙)


 言い訳も、誤魔化しも浮かばない。


 もう、逃げきれないところまで来てる。


 昨日、一人で歩いた帰り道。


 考え続けて、


 出た答えは一つだった。


 否定しない。


 できない。


「……ああ」


 小さく、でもはっきり言う。


 初めて、自分の口で認める。


 その瞬間、


 胸の奥にあった何かが、ゆっくりと形を持つ。


 逃げ場だった曖昧さが、消える。


 代わりに残るのは――


 はっきりした感情。


 凛が、少しだけ笑う。


 いつもの軽い笑い。


 でも、どこか優しい。


「重症だね」


「……ああ」


 苦笑いで返す。


 否定はしない。


 できるはずもない。


「でもね」


 凛が続ける。


「なに」


 少しだけ身構える。


「そのままでいいよ」


 あっさりとした言い方。


 軽いのに、やけに真っ直ぐで。


 一瞬、意味を考える。


 そのまま。


 つまり――


 変わらなくていいってこと。


 関係も。


 距離も。


 このままで。


 胸が、少しだけ締めつけられる。


 安心と、


 物足りなさと、


 言えなかった言葉の重さが、


 一気に混ざる。


「……そっか」


 それしか言えない。


 凛は、いつも通りの距離にいる。


 手を伸ばせば届く。


 でも、その先には進めない。


 教室の光が、やけに明るい。


 周りはいつも通りなのに、


 自分の中だけが、はっきり変わっている。


 恋を認めた瞬間。


 前には進めていないのに、


 もう後ろには戻れない。


 その状態が――


 思っていたより、ずっと重い。


 凛が、何でもない顔でノートを開く。


 いつも通りの日常が、また動き出す。


 でも――


 その“いつも通り”の中にいることが、


 少しだけ、苦しかった。

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