39 揺れ
帰り道、一人。
夕方はもう終わりかけていて、空は鈍い群青に変わり始めている。
街灯がぽつぽつと灯り始めて、昼と夜の境目みたいな時間。
隣にいるはずの人はいない。
それだけで、道がやけに広く感じる。
足音が一つだけ、アスファルトに響く。
(……何やってんだ俺)
小さく息を吐く。
今日のことが、何度も頭の中で繰り返される。
あのタイミング。
あの一言の手前。
言えたはずなのに。
(言えばよかった)
簡単なことだったはずだ。
たった一言。
それだけでよかったのに。
足が止まりそうになる。
でも止まらない。
止まったら、全部考えてしまいそうで。
(でも――)
喉の奥が、少しだけ詰まる。
胸の中にある言葉が、そのまま形になる。
(終わるのが怖い)
それが本音だった。
今の関係。
当たり前みたいに隣にいる時間。
くだらない会話。
何でもない帰り道。
それが――
壊れるのが怖かった。
「好き」って言った瞬間に、
全部変わってしまう気がして。
もし、うまくいかなかったら。
もし、距離ができたら。
もう、今みたいには戻れない。
風が吹く。
冷たい空気が、制服の中に入り込む。
思わず肩をすくめる。
(……情けねえな)
小さく笑う。
誰もいないのに。
さっきまで三人でいた道。
今は、一人。
街灯の下に伸びる影も、一つだけ。
長く伸びて、
どこか頼りない形をしている。
空を見上げる。
もう夕焼けは残っていない。
全部、夜に飲み込まれかけている。
「……はあ」
もう一度、息を吐く。
言えなかった言葉だけが、
胸の中に残っている。
消えないまま。
重く、沈んだまま。
そのまま――
一人で、歩き続けた。




