表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/97

38 告白未遂②

 

 別の日。


 放課後。


 窓の外は、少しだけ曇った空。

 夕焼けになりきれない薄い光が、教室の中をぼんやり照らしている。


 ざわざわしていた教室も、少しずつ人が減っていく。


(今日こそ言う)


 鞄を持ちながら、心の中で決める。


 何回も逃げた。


 もう、逃げたくない。


 廊下に出る。


 凛が隣にいる。


 いつも通りの距離。


 でも今日は、その距離を変えるつもりでいる。


「ねえ凛」


 声が、少しだけ固い。


「なに」


 凛が振り向く。


 目が合う。


 逃げ場がなくなる。


「俺――」


 心臓が、うるさい。


 手のひらに汗がにじむ。


 でも――


 今なら言える気がした。


 そのとき。


「相沢さん!」


 声が割り込む。


 一瞬で空気が変わる。


 神代。


 タイミングが、最悪すぎる。


(……なんで今なんだよ)


 思わず奥歯を噛む。


 神代は自然に距離を詰める。


 いつも通りの笑顔で。


「今度映画行かない?」


 軽い調子。


 でも、その一言がやけに重く響く。


 時間が、少しだけ止まったみたいになる。


 凛が、少しだけ考える。


 ほんの一瞬。


 でも、その“間”がやけに長く感じる。


(断れ)


 心の中で思う。


 口には出せないくせに。


「……うん、いいよ」


 あっさり。


 拍子抜けするくらい、自然に。


 決まる。


(終わった)


 頭の中で、何かがストンと落ちる。


 さっきまでの覚悟が、一気に崩れる。


 凛がこちらを見る。


 何か言いかけたような目。


 でも――


 何も言わない。


 言えない。


 俺も。


 神代が嬉しそうに話し始める。


「じゃあさ、今週――」


 その声が、少し遠くに聞こえる。


 廊下の窓から入る風が、やけに冷たく感じる。


 さっきまで“言える”と思っていた距離が、


 一瞬で遠くなる。


 手を伸ばせば届くはずなのに、


 届かない場所に行ったみたいに。


「……」


 何も言えないまま、立っている。


 夕方の薄い光が、三人の影を床に落とす。


 その影は――


 綺麗に並ばない。


 少しだけズレて、重なって、


 どこか歪な形をしていた。


 その歪さが、


 今の関係そのものみたいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ