38 告白未遂②
別の日。
放課後。
窓の外は、少しだけ曇った空。
夕焼けになりきれない薄い光が、教室の中をぼんやり照らしている。
ざわざわしていた教室も、少しずつ人が減っていく。
(今日こそ言う)
鞄を持ちながら、心の中で決める。
何回も逃げた。
もう、逃げたくない。
廊下に出る。
凛が隣にいる。
いつも通りの距離。
でも今日は、その距離を変えるつもりでいる。
「ねえ凛」
声が、少しだけ固い。
「なに」
凛が振り向く。
目が合う。
逃げ場がなくなる。
「俺――」
心臓が、うるさい。
手のひらに汗がにじむ。
でも――
今なら言える気がした。
そのとき。
「相沢さん!」
声が割り込む。
一瞬で空気が変わる。
神代。
タイミングが、最悪すぎる。
(……なんで今なんだよ)
思わず奥歯を噛む。
神代は自然に距離を詰める。
いつも通りの笑顔で。
「今度映画行かない?」
軽い調子。
でも、その一言がやけに重く響く。
時間が、少しだけ止まったみたいになる。
凛が、少しだけ考える。
ほんの一瞬。
でも、その“間”がやけに長く感じる。
(断れ)
心の中で思う。
口には出せないくせに。
「……うん、いいよ」
あっさり。
拍子抜けするくらい、自然に。
決まる。
(終わった)
頭の中で、何かがストンと落ちる。
さっきまでの覚悟が、一気に崩れる。
凛がこちらを見る。
何か言いかけたような目。
でも――
何も言わない。
言えない。
俺も。
神代が嬉しそうに話し始める。
「じゃあさ、今週――」
その声が、少し遠くに聞こえる。
廊下の窓から入る風が、やけに冷たく感じる。
さっきまで“言える”と思っていた距離が、
一瞬で遠くなる。
手を伸ばせば届くはずなのに、
届かない場所に行ったみたいに。
「……」
何も言えないまま、立っている。
夕方の薄い光が、三人の影を床に落とす。
その影は――
綺麗に並ばない。
少しだけズレて、重なって、
どこか歪な形をしていた。
その歪さが、
今の関係そのものみたいだった。




