37 告白未遂①
帰り道。
夕焼けが街をゆっくり染めていた。
電柱の影が長く伸びて、歩道に斜めの線をいくつも落としている。
昼間の熱が少しだけ残った空気。
でも風はやわらかくて、どこか静かだった。
二人で並んで歩く。
いつもの距離。
いつものはずなのに――
少しだけ、意識してしまう。
「ねえ」
凛が言う。
「なに」
短く返す。
喉が少しだけ乾いている。
「俺さ」
言葉が出る。
自分でも驚くくらい、自然に。
(言うか?)
心臓が一気にうるさくなる。
足音よりも、はっきり聞こえる。
(今か?)
隣を見る。
凛は前を向いたまま。
いつも通りの横顔。
でも――
今なら、ちゃんと聞いてくれそうな気がする。
夕焼けが、その横顔をやけに綺麗に見せていて。
逃げ場がなくなる。
「……やっぱなんでもない」
言ってしまう。
言った瞬間、自分でも分かる。
逃げた。
一番言いたかった言葉から。
凛は、何も言わない。
ただ少しだけ歩く速度が変わる。
速くも遅くもない。
ほんのわずかに、リズムがズレる。
そのズレが、妙に気になる。
沈黙。
さっきまでとは違う、重い静けさ。
風が吹いて、どこかの家の洗濯物が揺れる音がする。
遠くで車の走る音。
全部がやけにクリアに聞こえる。
隣にいるのに、遠い。
「……そっか」
凛が、小さく言う。
責めるでもなく、軽く流すでもない。
ただ、受け取っただけの声。
それが逆に刺さる。
(今の、なんだったんだよ)
自分で自分に問いかける。
答えは分かってるのに。
怖かっただけだ。
変わるのが。
壊れるのが。
この距離が。
夕焼けの中、二人の影が伸びる。
さっきよりも、少しだけ間が空いている。
その距離が――
さっき言えなかった言葉の分だけ、広がっている気がした。




