表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/90

37 告白未遂①

 

 帰り道。


 夕焼けが街をゆっくり染めていた。

 電柱の影が長く伸びて、歩道に斜めの線をいくつも落としている。


 昼間の熱が少しだけ残った空気。

 でも風はやわらかくて、どこか静かだった。


 二人で並んで歩く。


 いつもの距離。

 いつものはずなのに――


 少しだけ、意識してしまう。


「ねえ」


 凛が言う。


「なに」


 短く返す。


 喉が少しだけ乾いている。


「俺さ」


 言葉が出る。


 自分でも驚くくらい、自然に。


(言うか?)


 心臓が一気にうるさくなる。


 足音よりも、はっきり聞こえる。


(今か?)


 隣を見る。


 凛は前を向いたまま。


 いつも通りの横顔。


 でも――


 今なら、ちゃんと聞いてくれそうな気がする。


 夕焼けが、その横顔をやけに綺麗に見せていて。


 逃げ場がなくなる。


「……やっぱなんでもない」


 言ってしまう。


 言った瞬間、自分でも分かる。


 逃げた。


 一番言いたかった言葉から。


 凛は、何も言わない。


 ただ少しだけ歩く速度が変わる。


 速くも遅くもない。


 ほんのわずかに、リズムがズレる。


 そのズレが、妙に気になる。


 沈黙。


 さっきまでとは違う、重い静けさ。


 風が吹いて、どこかの家の洗濯物が揺れる音がする。


 遠くで車の走る音。


 全部がやけにクリアに聞こえる。


 隣にいるのに、遠い。


「……そっか」


 凛が、小さく言う。


 責めるでもなく、軽く流すでもない。


 ただ、受け取っただけの声。


 それが逆に刺さる。


(今の、なんだったんだよ)


 自分で自分に問いかける。


 答えは分かってるのに。


 怖かっただけだ。


 変わるのが。


 壊れるのが。


 この距離が。


 夕焼けの中、二人の影が伸びる。


 さっきよりも、少しだけ間が空いている。


 その距離が――


 さっき言えなかった言葉の分だけ、広がっている気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ