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36 名前のない関係

 

 放課後。


 校舎を出ると、夕方の空が広がっていた。

 オレンジ色に染まった雲がゆっくり流れていて、昼間の賑やかさが少しずつほどけていく時間。


 部活帰りの声が遠くで混ざり合う中、

 俺たちはまた、当たり前みたいに並んで歩いていた。


 靴音が、静かに重なる。


「ねえ」


 凛が、前を見たまま言う。


「なに」


「私たちってさ」


 少しだけ間。


 風が吹いて、凛の髪が揺れる。


「なんなんだろうね」


「……」


 すぐには答えられない。


 考えようとすると、逆に言葉が見つからなくなる。


「友達?」


 凛が、少しだけ軽く言う。


 でもその声は、どこか探るみたいで。


「……多分」


 やっと出た言葉が、それだった。


 曖昧で、逃げみたいな答え。


「“多分”なんだ」


 凛が小さく笑う。


 その笑い方は、いつもより少しだけ弱い。


 夕日の光が横顔に当たって、

 その表情をはっきりさせるのに――


 逆に、どこか遠く見える。


 胸の奥が、少しざわつく。


(……違う気がする)


 でも、何が違うのか言えない。


「じゃあさ」


 凛が続ける。


 歩くスピードが、ほんの少しだけゆっくりになる。


「友達以上?」


「……」


 心臓が、少しだけ強く鳴る。


 でも――


 その先の言葉を言う勇気がない。


 認めたら、変わってしまう気がして。


 今のままじゃいられなくなる気がして。


「……知らねえよ」


 結局、逃げる。


 また。


 凛が、少しだけ前を見る。


 さっきより、ほんの少しだけ距離ができる。


「そっか」


 短い一言。


 でもその中に、いくつかの感情が混ざっている気がした。


 沈黙。


 さっきまで心地よかった静けさが、少しだけ違うものになる。


 遠くでカラスの鳴き声が聞こえる。


 夕焼けが、ゆっくり色を濃くしていく。


「ねえ」


 また凛が言う。


 今度は少しだけ柔らかい声で。


「なに」


「ちゃんと名前、つけないとね」


「……何にだよ」


「この関係」


 足が、ほんの一瞬止まりそうになる。


 でも止まらない。


 止まれない。


「そのうちでいいよ」


 凛が、少しだけ笑う。


 さっきより、少しだけ強い笑い方。


 無理してるわけじゃない。


 でも、どこか決めてるみたいな笑い方。


「逃げても、進むから」


 その言葉が、やけに残る。


 夕焼けの中。


 二人の影が、長く伸びる。


 重なりそうで、少しだけズレている。


 その距離が――


 今の“名前のない関係”そのものみたいだった。

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