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33 崩れかけ

 放課後。


 チャイムが鳴り終わって、教室の空気が一気にほどける。

 椅子の音、鞄を持つ音、帰り支度のざわめき。


 でも――


 その中で、自分だけ少し浮いている気がした。


 窓の外は、もう夕方に差しかかっている。

 オレンジ色の光が差し込んで、教室の影を長く引き伸ばしていた。


(……だるい)


 理由は分かってる。


 昼のあの光景。


 頭から離れない。


 凛が、神代と並んでいたこと。


 笑っていたこと。


 距離が近かったこと。


 全部が、引っかかっている。


(別にいいだろ)


 何度も思う。


 でも、そのたびに胸の奥がざらつく。


 鞄を持って、教室を出る。


 廊下は帰る生徒で混んでいる。


 ざわざわした音の中で、余計に考えがまとまらない。


 そのとき。


 後ろから足音が近づく。


「今日さ」


 自分でも驚くくらい、先に口が動いていた。


「なに」


 凛の声。


 いつも通り。


 それが、少しだけ苛立つ。


「神代と帰ればいいじゃん」


 言った瞬間。


 空気が、止まる。


「……え?」


 凛の声が、ほんの少しだけ揺れる。


 でも、もう止められない。


「そっちの方が楽しいだろ」


 言葉が、勝手に出てくる。


 本心じゃないのに。


 いや、本心だからこそ、雑に出る。


「なんでそんなこと言うの」


 声が、少し強くなる。


 振り向けない。


 顔を見るのが、怖い。


「別に」


 短く返す。


 逃げるみたいに。


「別にじゃないでしょ」


 はっきりとした声。


 さっきよりも、ずっと強い。


 廊下のざわめきの中でも、はっきり聞こえる。


 足が止まりそうになる。


 でも――


「……知らねえよ」


 それだけ言って、歩き出す。


 早足になる。


 人の流れを抜けて、階段を降りて、校舎の外へ。


 夕方の空気が、少しだけ冷たい。


 でも、頭は全然冷えない。


(……なんだよこれ)


 胸の奥が、ぐちゃぐちゃだ。


 言いたかったことなんて、あんな言葉じゃない。


 分かってる。


 でも、止められなかった。


 足音だけが、やけに大きく響く。


 後ろから――


 声は来なかった。


 振り返らない。


 振り返れない。


 ただ、前だけを見て歩く。


 夕日が沈みかけて、影が長く伸びる。


 でもその影は――


 ひとつしかなかった。

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