32 嫉妬②
昼休み。
教室はいつも通りのざわめきに満ちている。
弁当の匂い、パンの袋を開ける音、あちこちで重なる会話。
その中で――
「相沢さん、これ一緒にやらない?」
神代の声。
軽いけど、迷いのない誘い方。
凛が顔を上げる。
一瞬も迷わず。
「いいよ」
(即答)
その二文字が、やけに大きく聞こえた。
(……は?)
胸の奥が、ざわっと波立つ。
頭では理解している。
ただの勉強。
ただの誘い。
何もおかしくない。
なのに。
視界が少しだけ狭くなる。
周りの音が、遠くなる。
二人が並んでノートを広げる。
距離が近い。
自然な距離。
さっきまで自分がいた場所みたいに。
(……なんだよそれ)
喉の奥が、少しだけ詰まる。
パンをかじる。
味がしない。
まただ。
そのとき。
「顔、やばいよ」
横から声。
クラスメイトが、ニヤニヤしながらこっちを見ている。
「うるせえ」
低く返す。
でも、声に余裕がないのは自分でも分かる。
「完全にやられてるじゃん」
軽く言われる。
冗談みたいに。
でも――
否定できない。
「……」
言葉が出ない。
視線が、また勝手にそっちへ向く。
凛が笑っている。
神代も、自然に笑っている。
会話のテンポが合っている。
空気が、ちゃんと回っている。
(……無理だろ)
もう分かる。
これは、ただの“ちょっと気になる”じゃない。
さっきまでの軽いものとは違う。
もっと、はっきりした感情。
胸の奥に居座る、重たい何か。
誤魔化そうとしても、消えない。
「……はあ」
小さく息を吐く。
机に肘をついて、視線を落とす。
ノートの文字が、やけにぼやける。
(もう、無理だな)
認めるしかない。
このざわつきも。
この苛立ちも。
このどうしようもなさも。
全部。
“嫉妬”だ。
教室のざわめきは変わらない。
でも――
その中で、自分の世界だけが少しだけ歪んで見えた。




