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31 恋は下心

 

 帰り道。


 夕方の空は薄く曇っていて、光がどこかぼやけている。

 昼間のざわめきが嘘みたいに、道は静かだった。


 並んで歩く。


 でも――


 いつもより、少しだけ距離がある気がする。


 足音も、微妙に揃わない。


 さっきの教室の空気が、そのまま残っているみたいだった。


「ねえ」


 凛が口を開く。


 少しだけ、慎重な声。


「なに」


 ぶっきらぼうに返す。


 でも、ちゃんと聞いている。


「前に言ったよね」


「……何を」


 視線は前のまま。


 空気が、少しだけ張る。


「恋は“下心”」


「……ああ」


 思い出す。


 あのときは、冗談みたいに笑って流した言葉。


 でも今は――


 笑えない。


「独占したいって気持ち」


 その一言が、静かに落ちる。


 風が吹く。


 髪が揺れて、視界の端で凛の横顔が少しだけ動く。


「……」


 何も言えない。


 今日の自分の態度。


 さっきの言葉。


 全部が、そこに繋がっている。


「それが出てる」


 はっきり言われる。


 逃げ場がないくらい、まっすぐに。


(……ああ)


 心の中で、認めるしかない。


 否定できない。


 したくても、できない。


 沈黙が落ちる。


 遠くで車が通る音だけが、かすかに聞こえる。


「でもね」


 凛が続ける。


 さっきより、少しだけ柔らかい声。


「それ、悪くないよ」


「……は?」


 思わず振り向く。


 予想してなかった言葉。


 凛は前を向いたまま、少しだけ笑う。


「ちゃんと好きってことだから」


 その言葉。


 軽く言ったみたいなのに――


 やけに、優しい。


 胸の奥に、すっと落ちてくる。


 さっきまでのざらついた感じが、少しだけほどける。


(……好き、か)


 まだはっきりとは言えない。


 でも、その言葉に、完全には抵抗できなかった。


 凛が、少しだけこっちを見る。


 目が合う。


 ほんの一瞬。


 それだけで、さっきまでの距離が少し縮まる。


「だからさ」


「……なに」


「ちゃんと認めた方が楽だよ」


 軽く言う。


 でも、その目は少しだけ真剣だった。


 夕方の光が、ゆっくりと薄れていく。


 街灯が一つ、また一つと点き始める。


 その中で。


 さっきまで少しズレていた足音が、

 いつの間にかまた揃い始めていた。

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