30 嫉妬①
翌日。
教室に入った瞬間、いつもと同じはずの風景が広がる。
ざわざわした朝の空気、椅子を引く音、誰かの笑い声。
でも――
一つだけ、違って見えた。
凛が、神代と笑っている。
昨日と同じ光景。
なのに、今日はやけに目につく。
距離が、少し近い。
話している内容なんて聞こえないのに、
楽しそうな空気だけがはっきり伝わってくる。
(……なんだよそれ)
無意識に視線が止まる。
すぐに逸らす。
でも、また戻る。
(別にいいだろ)
頭では分かってる。
当たり前のことだし、止める理由なんてない。
なのに。
胸の奥が、少しだけざらつく。
ノートを開く。
シャーペンを持つ。
でも、手が止まる。
(……面倒くせえな)
自分でも分かるくらい、機嫌が悪い。
そのとき。
「ねえ」
横から声。
凛が、いつの間にか隣に来ていた。
「なに」
短く返す。
できるだけ、いつも通りに。
「今日ちょっと冷たい」
「普通だろ」
視線は合わせない。
机の上を見たまま。
「違う」
即答。
迷いがない。
「……別に」
言葉が少しだけ雑になる。
自分でも分かる。
「嫉妬してる?」
その一言。
まっすぐすぎる。
「してねえ」
即答。
でも、少しだけ間があった。
「嘘」
静かに返される。
逃げ場がない。
「うるせえ」
思ったより、強く出る。
空気が、一瞬だけ止まる。
教室のざわめきが、遠くなる。
凛が、少しだけ黙る。
さっきまでの軽い空気が消える。
ほんの一瞬。
でも、その沈黙がやけに長く感じた。
(……あ)
やりすぎた、と思う。
でも、もう遅い。
凛は視線を少しだけ逸らす。
表情は変わらないはずなのに、
どこかだけ、距離ができた気がした。
窓の外から風が入る。
カーテンが揺れて、光が揺れる。
その中で――
さっきまでと同じはずの距離が、
ほんの少しだけ、遠く感じた。




