26 自覚
昼休み。
教室はいつも通りのざわめきに包まれている。
机をくっつけて弁当を広げるやつ、購買のパンをかじるやつ、笑い声と話し声が混ざり合う。
窓からは春の光が差し込んで、空気が少しだけ明るい。
その中で。
凛が笑っている。
――他の男子と。
何気ない会話。
たぶん、ただの雑談。
距離も、表情も、いつも通り。
(……別にいいだろ)
頭ではそう思う。
当然のことだし、昨日今日の話でもない。
なのに。
口に入れたパンの味が、少ししない。
もそもそと噛んでいるのに、
味だけがどこか遠くにある感じ。
視線が、勝手にそっちへ向く。
笑ってる顔。
楽しそうな声。
(……なんだよこれ)
小さくため息をつく。
そのとき。
「顔、分かりやすいよ」
すぐ横から声。
驚いて見ると、いつの間にか凛が隣に戻ってきていた。
さっきまであっちにいたはずなのに。
「なにが」
平然を装う。
パンをもう一口かじる。
「発熱」
「違う」
即答。
でも、さっきの感覚がまだ残っている。
「嫉妬は高熱」
いつもの調子。
軽い言い方。
でも――
「……それな」
気づいたら、そう言っていた。
一瞬、自分で固まる。
(あ)
言ってから気づく。
凛が、少しだけ目を見開く。
それから、ゆっくりと笑った。
「認めたね」
「……ちょっとだけだ」
視線を逸らす。
窓の外を見るふりをする。
でも、耳が少しだけ熱い。
教室のざわめきは変わらないのに、
自分の周りだけ妙に静かに感じる。
凛は何も言わない。
ただ、少しだけ嬉しそうに笑っている。
その気配が、隣から伝わってくる。
(……まあ、いいか)
完全に否定するのは、もう無理だ。
この感じも。
この距離も。
このどうしようもなさも。
全部まとめて――
少しだけ、受け入れてしまった気がした。
パンの味が、少しだけ戻ってくる。
さっきより、ちゃんと分かる。
それがなぜか、少しだけおかしかった。




