25 潜伏完了
放課後。
教室にはもう、ほとんど人がいない。
文化祭の翌日だからか、どこか全体的に気の抜けた空気が残っている。
机の上には、まだ片付けきれていない飾りの名残。
テープの跡や、紙くずが少しだけ残っていて――
“昨日”がまだ完全には終わっていない感じがした。
窓の外は、ゆっくりと夕方に変わっていく。
オレンジ色の光が教室に差し込んで、
影が長く伸びていた。
その中で。
「結論出た」
凛が、いつもの調子で言う。
机に肘をついて、こっちを見ている。
「またか」
軽く返す。
でも、このやり取りももう“いつもの”だ。
「これ」
「なに」
凛が、少しだけ身を乗り出す。
距離が近い。
「もう普通の状態に戻れない」
「は?」
思わず眉をひそめる。
けど――
続く言葉で、何を言いたいのか分かってしまう。
「一緒にいるのが当たり前になってる」
その一言。
やけに、静かに響いた。
教室の空気が、少しだけ止まった気がする。
「……」
何も言えない。
否定しようと思えばできるはずなのに。
言葉が出てこない。
(……まあ、確かに)
朝の挨拶も。
昼休みも。
帰り道も。
気づけば、全部に凛がいる。
それが“普通”になっている。
「ねえ」
「なに」
凛の声が、少しだけ柔らかくなる。
さっきまでの軽さとは違う。
「これが“進行”だよ」
夕日の光が、凛の横顔を照らす。
その表情は、どこか穏やかで――
少しだけ、安心したようにも見えた。
(進行、か)
最初はただの冗談みたいな話だったはずなのに。
今はもう、笑い飛ばせない。
でも。
不思議と、嫌じゃなかった。
むしろ――
「……そうかもな」
小さく呟く。
凛が、少しだけ目を見開く。
それから、ふっと笑う。
「でしょ?」
その笑顔を見て。
胸の奥にあった、曖昧な何かが――
少しだけ、落ち着いた気がした。
窓の外。
夕日が、ゆっくりと沈んでいく。
教室の中の光も、少しずつ薄れていく。
でも。
その代わりみたいに。
ここにある空気だけは、ちゃんと残っていた。
“戻れない”って言葉。
普通なら怖いはずなのに。
そのときは――
なぜか、少しだけ安心してしまった。




