17 未来の話
帰り道。
夕焼けはもう終わりかけていた。
空の端にわずかに残る橙色が、ゆっくりと夜に飲み込まれていく。
街灯がぽつぽつと灯り始めて、道は柔らかい光に包まれる。
車のヘッドライトが通り過ぎるたびに、影が揺れて、また静かに戻る。
いつもの道。
いつもの距離。
いつもの並び。
でも、今日は少しだけ空気が違った。
「将来どうするの?」
凛が、何気ない調子で聞く。
「まだ考えてない」
正直に答える。
未来なんて、まだ遠い話だと思っている。
「そっか」
短い返事。
それだけなのに、どこか余韻が残る。
「お前は?」
聞き返す。
凛は少しだけ前を向いたまま、歩く速度を落とす。
風が吹く。
髪が揺れて、その隙間から見える横顔が、いつもより少しだけ遠く感じた。
「……内緒」
「なんでだよ」
思わずツッコむ。
「言うと現実になるから」
「意味わからん」
凛は小さく笑う。
でも、その笑いは、どこか曖昧で。
「いいの」
それだけ言って、少しだけ目を逸らす。
街灯の光が、横顔に影を落とす。
そのせいか、表情がうまく読めない。
足音だけが、静かに続く。
さっきまでの空気とは違って、
ほんの少しだけ、言葉にしづらい間が生まれる。
(……なんだ今の)
ただの会話のはずなのに。
“内緒”
その一言が、妙に引っかかる。
未来の話。
まだ遠いはずのもの。
なのに――
急に、現実味を帯びた気がした。
風がまた吹く。
少しだけ冷たい。
その温度が、さっきの言葉と重なる。
隣を歩く距離は変わらないのに、
どこかだけ、ほんの少し遠くなった気がした。




