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16 静かな時間

 

 図書室の帰り。


 扉を閉めると、あの静けさが一枚向こうに置いていかれる。

 廊下には、部活に向かう足音や話し声が戻ってきて、現実の音がゆっくりと広がる。


 窓の外はもう夕方で、空は淡い橙色から紫へと変わりかけていた。

 廊下の床に差し込む光も長く伸びて、歩くたびに影が揺れる。


 昇降口で靴を履き替えて、外に出る。


 空気は少しだけひんやりしていて、昼間よりも静かだった。

 遠くで聞こえるのは、部活の掛け声と、自転車のベルの音くらい。


 そのまま、並んで歩き出す。


 無言。


 でも、落ち着く。


 足音が揃う。

 さっきまでノートに向かっていた集中の余韻が、まだどこかに残っているみたいだった。


 言葉がなくても、気まずくない。


 むしろ、このままでもいいと思えるくらい。


「ねえ」


 凛がぽつりと口を開く。


「なに」


 横を見ると、凛は前を向いたまま、少しだけ空を見上げていた。


「こういう時間、好き」


 その声は、いつもより少しだけ静かで、

 図書室の延長みたいに落ち着いていた。


 一瞬、言葉を探す。


 でも――


「……俺も」


 自然に出た。


 考えるより先に、口に出ていた。


 自分でも少し驚くくらい、迷いがなかった。


 凛が、ほんの少しだけ目を見開く。


 それから、ふっと笑った。


「珍しく素直」


「うるせえ」


 少しだけ視線を逸らす。


 でも、さっきの言葉を取り消す気にはならなかった。


 風が吹く。


 凛の髪が揺れて、その先が夕焼けの光をかすかに反射する。


 空はもうほとんど紫に近くて、街灯がひとつ、またひとつと灯り始めていた。


 その中で――


 二人の間には、静かな時間が流れている。


 騒がしくもなく、特別でもない。


 でも、確かにそこにある時間。


 言葉は少なくても、ちゃんと伝わる何か。


 その空気が、やけに心地よかった。


 歩くペースも、距離も、

 全部が自然に揃っていた。

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