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12 お弁当事件

 

 昼休み。


 教室はいつも通りの賑やかさに包まれていた。

 机をくっつけて弁当を広げるやつら、購買の袋を開ける音、あちこちで笑い声が弾ける。


 窓からは春の風が入り込んで、カーテンをゆるく揺らしていた。

 外では体育の授業らしく、笛の音が遠くに響く。


 俺は机の上に弁当を置いて、ふたを開けた。

 特に変わり映えのない中身。見慣れた色合い。


 そのとき。


「交換しよう」


 隣から、当たり前みたいな声。


「なんでだよ」


「味の比較」


「言い方」


 凛はすでに自分の弁当を開けている。

 彩りが少しだけ良くて、妙にちゃんとしている感じが腹立つ。


「ほら」


 ぐいっと差し出される。


「……」


 少しだけ迷ってから、ため息をつく。


「……少しだけな」


 渋々、自分の弁当と交換する。


 箸で一口。


「……うま」


 思わず漏れる。


 味がちゃんとしてる。

 なんか、家庭的っていうか――妙に安心する味。


「でしょ?」


 凛が得意げに笑う。


「お前のも普通にうまいな」


 返すように言うと、


「でしょ?」


 同じトーンで返される。


「ドヤるな」


 思わずツッコむ。


 凛はくすっと笑いながら、俺の弁当を一口食べる。


 少しだけ目を細めて、味を確かめるみたいに。


 教室のざわめきが、そのまま流れていく中で――


 このやり取りだけが、妙にゆっくりに感じた。


「でもさ」


 凛がぽつりと呟く。


 視線は弁当に落としたまま。


「こういうの、ちょっと嬉しくない?」


 その言葉に、一瞬だけ手が止まる。


 窓の外で、風が吹く。

 カーテンがふわっと膨らんで、光が揺れる。


「……まあな」


 小さく答える。


 正直に。


 凛は顔を上げて、こっちを見る。


「でしょ?」


(少し笑う)


 その笑いは、いつもより少しだけやわらかくて、

 どこか満足そうだった。


 俺もつられて、少しだけ口元がゆるむ。


(……なんだこれ)


 ただ弁当を交換しただけ。


 それだけなのに。


 胸の奥に、じんわりとした何かが残る。


 教室の音、外の風、昼の光。


 その全部の中で――


 この小さな出来事だけが、やけに温かかった。

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