2話。
「……何なんだ、お前」
「…あ、悪魔だよ」
困ったように笑みを浮かべながら、はらはらと涙を零す悪魔。
信じられないというように、天使は鋭く睨みつける。
悪魔は乱暴に目を擦り、涙を拭った。
「それより、手当てしないと」
警戒を露わにする天使を刺激しないよう、悪魔はそっと目線を合わせる。
「要らない」
さらに深く睨みつけても、悪魔は引かなかった。
どこかへ駆け出したかと思うと、両腕いっぱいに包帯を抱えて戻ってくる。
叱られた子供のような顔で、手当てを懇願する悪魔に。
ーー天使は、折れた。
◇◇◇
「……天使、初めて見た」
大人しく座った天使の背後で、悪魔が目を輝かせながら呟く。
「天界にいるのに?」
天使は眉を顰め、振り返らずに問う。
悪魔は一瞬だけ目を見開き、すぐに伏せた。
ぽつり、ぽつりと語り出す。
「……ここは、天界でも魔界でもない。空間の狭間だ」
「空間の狭間……?」
「そう。神が遺した、忘れられた場所。……大昔、神が与えた試練を受けるための場所」
少し困ったように笑い、悪魔は続ける。
「――アダムとイブって、聞いたことない?」
その名に、天使は目を剥いた。
アダムとイブ。
天界でも魔界でも、知らぬ者はいない。
この世界が分断されるきっかけとなった、人間たち。
「でも、その試練で壊されたはず」
動揺を隠せないまま、天使は無意識に傷ついた羽根へ触れていた。
それに気づいた悪魔が、咎めるように手を伸ばす。
次の瞬間。
ジュッ、と音がした。
「いッ!」
天使の指先が、焼ける。
天使はすぐに手を振り払った。
鋭く睨みつける。
悪魔は、自分の手を見つめたまま呆然としている。
「……知らないの」
ーーまさか、本当に?
悪魔が天使に触れれば、天使は焼ける。
そんなこと、天界でも魔界でも常識のはずだった。
「……し、らなかった。ごめん」
掠れた声。
「傷を、増やしてしまった」
泣き止んだはずの悪魔の目から、また涙が零れ落ちる。
顔を歪め、「ごめん、ごめん」と繰り返す。
信じられないものを見る目で、天使はそれを見つめた。
「な、泣くな!」
怪我をしたのはこっちだ、と言いかけて飲み込む。
足元の木の枝を拾い、軽く悪魔の頭を叩いた。
「変わった奴……。直接触れなければ大丈夫」
涙で濡れた瞳が、ぱちりと瞬く。
小さな呟きが聞こえたらしい。
悪魔の顔が、泣いたままぱっと明るくなる。
「手袋! ある!」
また駆け出し、今度は少し厚手の手袋を持って戻ってきた。




