6章 歌と氷の大精霊イレイナ
「ねぇ、貴方何故その子の手助けをしたの?」そう声をかけてきたのは、白い髪にオッドアイの長身の女性だった。「困っているみたいだったから。」「それだけ?何かを求めたりしないの?」すみれは不思議そうな顔をして言った。「誰かを助けるのに見返りなんているの?」女性は驚いたようで口に手を当てた。「こんな人もいるのね。ねぇ貴方はもしも精霊と契約するなら、何を見返りとしてくれるの?」そう、精霊との契約は見返りが必要だ。精霊は力を貸す代わりに、何かを与えなければならない。「そうねぇ、私には何も渡すものはないわ。だって、目も足も使えないのだもの。でも、家族になることはできるわ。」「家族?」「えぇ、精霊は世界樹から溢れた魔力が宿ったものから生まれる。でも、それはどこに宿るか分からない。それって、精霊が生まれた時はひとりってことよね?だから、そばで寄り添う存在、家族になるわ。」「貴方は精霊をこき使おうとか思わないのね?みんな言ってるわ精霊はこき使われるために生まれてくるのだと。」すみれは少し怒った顔をして言った。「その人達は何を言ってるのかしら。精霊は確かに依代が壊されない限り死なないわ。でも道具なんかじゃない。奴隷なんかじゃない。私たちと同じように感情があるのだから。」女性は、思った―こんな者が存在するなんて。この者ならこの世界を変えられるかもしれない。この者なら...―
「貴方の名前は?」「私はすみれ。貴方は?精霊さん。」「え?精霊?この女性がか?」「気づいていたの?」「もちろん。だってこんなにも、澄み渡った魔力は精霊だけだもの。」女性は少し驚いてから言った。「私はイレイナ、歌と氷の大精霊よ。すみれ、私と契約しない?」「契約?でも、私には何も渡すものは...」「家族になってくれるのでしょう?」「それでいいの?私は目も足も動かないただのお荷物よ。」イレイナは優しく微笑みながらしゃがんだ。「私と契約すれば貴方の多すぎる魔力を少しは制御できるようになるわ。そうすれば目も足も動くようになる。どう?」「え?私!見えるようになるの?みんなと一緒に歩いて行けるの?」すみれは涙を流した。「えぇ、私はずっと寂しかったのだわ。だから、貴方のような存在を探していた。どうかお願い、私と契約してくれないかしら?」「っもちろん。お願いするわ」「ありがとう。私の言葉に続いて。我、歌と氷の大精霊イレイナ。ここに汝と契約を結ぼう。汝、我に何を与えんとする?」「我は歌と氷の大精霊イレイナと家族になり、この命終わりし時までそばに寄り添おう。」「汝の名は?」「すみれ」2人の腕にツタの模様が浮かび上がった。そしてすみれは目を開いた。「見える...見えるわ。足も動く。ありがとう。イレイナ。」そう言ったすみれは、初めて世界を見ながら笑うことができた。その後ろでは、暗い顔をしたルイがたっていた。




