表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

家族の定義間違ってね?

――翌朝。


俺はユイのボロ小屋で目を覚ました。


「……うーん……」


昨晩、祠の前で言われた「契約が結ばれる」という言葉がずっと頭から離れない。


(なんだよ“契約”って……異世界にありがちな魔法的な何かか?)


ユイの蜘蛛の糸も気になる。あれ、絶対ただの糸じゃない。俺の心の奥に手を突っ込んで引きずり出そうとするような、嫌な感じがする。


(やっぱあの子、人間じゃねえんじゃ――)


「お兄ちゃん! おはようっ!」


「うおっ!」


いつの間にか目の前にいたユイが、俺の布団(という名の干からびた葉っぱ)にダイブしてきた。


「な、なんだ急に!」


「えへへ。朝の挨拶だよ? “家族”は、こうするんでしょ?」


(ちょっと待て、俺がこの世界で最初に助けたのがユイだったってだけで、なんかいろいろ進行早すぎねえか?)


「……なあユイ、昨日の話、もう一度聞かせてくれ。契約って、どういう意味なんだ?」


「それはねー……」


ユイは布団の中でごろごろ転がりながら、にっこり笑った。


「お兄ちゃんの名前を知るとね、“運命”が繋がるんだって。そしたら、私たち、もっともっと一緒にいられるの」


「もっとって……今だって毎日一緒にいるじゃん」


「違うの。今は“仮”なの。仮家族。だから、名前を聞いて、ちゃんと“本物”にならなきゃ」


「……え? もしかして、俺って“家族登録”されようとしてんの?」


「うんっ!」


「ノリ軽っ!?」


俺は思わず布団から飛び起きた。


(これ、冗談で済む話じゃねえぞ。名前を言うだけで契約って、異世界的には“魂を縛られる”とか“呪いが発動する”とか普通にあるからな!?)


「な、なぁユイ……そもそもさ。お前の“本物の家族”ってのは、つまり何をするのが条件なんだ?」


ユイは、少し照れたように両手をモジモジさせた後、唐突に言った。


「うーんとね……まず、一緒に寝て、ご飯食べて、名前呼び合って、将来的には……」


「やめろ! その先を言うな!!」


「えー? でも、お兄ちゃん、人妻好きなんでしょ?」


「ぶっ!!」


盛大に咳き込む俺。


「な、な、な、なんでその話に……!?」


「だって、昨日の夜、寝言で『人妻って言葉だけでご飯三杯いける』って言ってたよ?」


「聞かれてたの!? しかも割と重度のやつ……!!」


「だから、安心していいよ。私は人妻じゃないけど……いずれ、誰かの“妻”になる予定だから」


「おい!! おいちょっと待てそれってまさか……!」


「お兄ちゃんの、ね♪」


俺はそのまま寝床から転げ落ち、頭を打った。


(この子やっぱり人間じゃない。人間ってこんな発言しねえ!)


「ふふ……じゃあ、そろそろ“名前”の話に戻ろっか」


「待って! 一旦クールダウンしよう!お茶とか入れよう!異世界のカモミールとかない!?」


「お兄ちゃん……」


ユイの声が急に、ひどく真剣なものになる。


「ねぇ、本当に言いたくないの? 私のこと……まだ信じられない?」


「ち、違う! そうじゃなくてだな!」


「だったら、なんで名前教えてくれないの?」


「それは……その……」


「お兄ちゃんの名前、知りたいなぁ……」


ユイの手が、またふわりと浮いた。


――蜘蛛の糸だ。


細く、透明に近いそれが、俺の胸元へと伸びてくる。


「嘘をついたら、わかっちゃうよ?」


「お、おい! それ反則だろ! 嘘発見器とかAIかお前は!」


「ふふっ。お兄ちゃんが隠してること、ひとつずつ、解いていくね」


ユイはそう囁くと、俺の目をじっと見つめてきた。


吸い込まれそうな瞳。


その奥には、何か得体の知れない、深い欲望が渦巻いているように見えた。


(やばい。こいつ、マジで俺を逃がす気ない……!)


「……でも、大丈夫」


ユイは唐突に笑顔に戻った。


「お兄ちゃんの名前、言ってくれるまで……ずーっと、ここにいればいいだけだから♪」


俺は、震える手で干からびた木の実を口に運んだ。


しけった味がした。


(俺……このままここで、“家族”にされるのか……?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ