出会いのフラグはアイテム任せ
朝。
鳥の声がうるさい。目覚め最悪。
「おはよう異世界……って、昨日より寒くね?」
草の上に寝ていた俺は、露に濡れた服でガタガタ震えていた。
自然って、思ったより容赦がない。
「昨日は“異世界ってマジか……”とか感動してたけど、もういい。文明くれ。布団くれ。コンビニとこたつとWi-Fiと人妻を返して」
言うだけ言って、溜め息ひとつ。
「とにかく村! 村を探そう!」
俺の理性が叫ぶ。現状、食料ゼロ。武器ゼロ。寝床草むら。
このままじゃ、村に着く前に餓死か野犬コース。
「……ああ、俺……人妻好きな大学生なだけなんだけどな……」
どんな肩書きだ。
___
移動開始から数時間。
森の奥、草を掻き分けながら進む。
「……あれ? なんか……開けてる?」
視界がぱっと明るくなった。木々の合間に、丸い石畳の広場。
「誰もいない……でも、人工物っぽい……ってか、あれ何?」
広場の中心に、腰くらいの高さの台座があった。
上には──怪しさ全開の、黒い小箱。
「……いやいや、どう見ても罠じゃんこれ。絶対、蓋開けたら煙出てきて爆発するやつだろ」
そう言いつつ、足は止まらない。だって、このまま彷徨っても生き延びる術が何もない。
(……まあ……触るだけ、触ってみるか)
台座の前に立つと、まるでセンサーでもついてたかのように箱がカチリと開いた。
中には、小さなペンダント。丸いガラス玉がぶら下がっている。
「え、なにこれ。超地味」
【あなたは“縁結びの願珠”を手に入れました】
「ッ!?」
脳に直接語りかけてくる系の声が響いた。
「なにこれ脳内アナウンス!? ついに俺にもスキルきた!? ってか“がんじゅ”って何!?」
【説明します。この願珠は、持ち主がこの世界で最初に助けた人に、“好意”を持たれるという効果を持ちます】
「……え、マジで?」
なんかすごいアイテム拾っちゃったかも。
【ただし、“好意”の種類は選べません】
「そこ大事だろ!? 友情とか尊敬とか、“バイトリーダーとして尊敬”とかやめてよ!?」
【持ち主が“好意”の内容に口を挟む権利はありません】
「お前誰だよ!? 神か!? ババアの親戚か!?」
【さようなら】
「無責任すぎるだろ!」
⸻
そんなこんなで、ペンダントをポケットに突っ込んだ俺。
少しだけ元気が出た。
(よし……このアイテム、うまく使えばワンチャンある。最初に助けた女の子が美人で、しかも人妻なら最強じゃね?)
フラグの建て方がろくでもない。
…だが現実は、そんなに甘くなかった。
その後、2時間彷徨っても村は見えず。水も食料もナシ。
そして、ついに事件は起きた。
「うおっ!? う、腕がっ!? 服になんか引っか……蜘蛛の巣かよッッッ!!?」
ぬるっと粘る何かに腕を取られ、足元が滑って転倒。
「ぐへっ!! 痛ってぇぇぇ!?」
顔から転び、全身が泥まみれ。草と砂とプライドがぐちゃぐちゃに。
「誰だよ……異世界=憧れの生活とか言い出したやつ……! もう帰りたい! 日本に! 風呂に入って! 給料日にコンビニで贅沢してえぇぇぇ!!」
──そのとき。
木陰の向こうに、小さな影がぬっと現れた。
「……」
「……」
(……あれ? なんか……人? いや、影? 子ども?)
何かが、勢いよく俺を襲いかかる。




