老婆のネタバレ 夢の世界で
ユイのネタバレを聞いたあと、俺は悪夢を見た。
それは確かに悪夢だった…
やけに現実的で、生々しくて、俺の心をじんわりと締めつけたけど…
「……また会ったねぇ、お前さん」
その声に振り返ると、そこにはあの老婆がいた。
俺を異世界に送りつけたくそ老婆…
ただ、今回は少しだけ様子が違う。
夜のような空間。星も月もないのに、空はどこまでも暗く、老婆の姿だけがぼんやりと照らされていた。
「ここは……どこだ?」
「夢の中さ。でも、ただの夢じゃないよ。この世界の“裏側”ってとこかねぇ。あたしゃ、こっち側の管理人みたいなもんさ」
「管理人……?」
「そう。あんたが今いる場所――あれはね、“衆合地獄”っていうのさ。不貞の罪を犯した人間が落ちる地獄さ。あたしゃ、そこに魂を集めて、遊んでるわけさ。最近、リニューアルしたけどね」
老婆はゆっくりと手を広げる。すると、虚空にぽつぽつと光る玉が浮かび上がった。
「願珠も私のおもちゃさ。魂の欲望に応じて、願いを叶える玉。あたしがね、お前さんが手に入るように渡したものさ」
「……お前が?」
「ああ、そうさ。だって面白いじゃないか。願いが叶ったと思ったら地獄。叶えた代償に苦しみもがく様子は、実に愉快だよ。あんたも、結構面白い反応してたねぇ。」
「ふざけんな……!」
「ふざけてるよぉ。地獄の管理人が、神様みたいな顔してちゃ、つまんないだろ? あたしゃね、人間の本性を見るのが好きなのさ。欲望、執着、裏切り……地獄ってのは、そういう“人間らしさ”の見本市だからねぇ」
「ユイは……ユイも、お前が……?」
「あの娘かい? 全て偶然であの娘の自分の意思で、お前さんの元にいるのさ。…地獄の鬼だけどね」
「おい最後、なんつった?」
「ま、そう怒んなさんな。昔と違って苦しみを与える地獄ではたまらないからね。私を楽しませる地獄にリニューアルした際に鬼たちも解放してやったから、あの世界の住人に変わらないよ。
どう受け止めるかはあんた次第だけどね。」
「あの性格は元からかよ」
「そうさ、本当に好かれたようだね。
まぁ、頑張って私を楽しませな」
老婆が、ふっと表情を緩めた。
「でもね、お前さん。覚えておきな。願いには、必ず代償がある。そして、代償を払う覚悟がないなら、願うべきじゃない。願珠が砕けた今、あんたはもう逃げられないよ」
「……どうゆうことだ?!」
「お前さんの願いは、初めて出会った人に好かれること、あの娘の願いは永遠の番を得ること。地獄の鬼は死ぬこともないから、永遠の誓いという名の呪いだね」
俺は、血の気を引いた。
「俺は、そんな願いを願ったつもりはない。」
老婆は鼻で笑った
「そう思うなら、即座に願珠を捨てらばよかったのさ。人の心を変えるアイテムなんてものを捨てられないからこの地獄に落ちたとも言えるがね。
等価交換としているだけ良心的ってもんさ」
「さて、そろそろお時間だ。あんたがこの夢のことを覚えていられるわけがないけど――」
老婆が手を振ると、世界が急速に崩れていく。
「せいぜい、あの娘と仲良くやんな。地獄でも、笑って生きりゃあ、ちょっとはマシに見えるもんさ」
老婆の声が、どこまでも響いていく。
「また会えるといいねぇ、お前さん」
――目が覚めたとき、俺の脳裏には何も残っていなかった。
ただ、胸の奥に、得体の知れないざわつきだけが、残っていた。




